ケアプランをめぐる攻防(3)

技術と制度

技術が確立する前に、制度が始まった

ケアプランにまつわる様々な問題点のルーツは、ほぼこの一文で説明できる。

例えば医師の仕事は、医師法や健康保険法等が制定されるずっと前から存在していたし、制度が立ち上がる前に人類の叡智として、その技術は蓄積されてきた。

同じく弁護士、会計士や看護師等も、社会に必要とされた専門的能力として、技術体系が構築されてきた。もちろん制度の発展と補完的な関係にはあったが、基本的に専門家が制度側から全て指図を受けているような関係性は生じていない。

それぞれの専門職は、人々の生活に根ざしつつ社会に要請された技術を、努力と創意工夫によって編み出してきた。現在もその技術は、医師が臨床や研修の実践を積み重ねているように、あるいは法律家がお互いの論旨を戦わせ多くの判例を生み出しているように、当の専門家たちが自ら創りあげている。

しかし日本のケアマネジャーに関しては、不幸にして技術が確立する前に制度が出来てしまった。野中猛氏(故人・元日本福祉大学教授)によると、医師は技術が先にあるので医師同士で技術の評価や指導するのが当たり前になっている、厚労省が医師に技術指導など出来ない。

ケアマネジャーの場合は、技術の前に制度があるので、厚労省の考え一つで制度の中で、どうにでも評価・指導出来る、もしくは指導されるのが当たり前と思われている節がある。本来、役所が技術専門職を評価、指導するのは無理だと断じている。

現状は、不適切なプランを遡上にあげることで、ケアプランの質を保つための指導が必要との大義名分がまかり通っている。もともとケアマネ の業務は、運営基準で一挙手一投足、ガチガチに固められているのに、さらに国が解釈通知を出すことで身動きがとりにくくなる。

実地指導の具体例

個別機能訓練加算ⅠとⅡ

通知の内容を反映させた指導をするのは、保険者である各自治体である。しかし、その指導はケアマネジメント技術の趣旨からみると的を得ていないものが多い。

例えば僕が所属する居宅介護支援事業所が受けた実地指導では、通所介護(デイサービス)でリハビリを受ける場合は、居宅サービス計画書に「個別機能訓練加算Ⅰ」もしくは「個別機能訓練加算Ⅱ」という文言を記載するように指導を受けたことがある。

個別機能訓練加算Ⅰを算定した場合、そのリハビリの目的は身体機能の維持・向上なので、目標は「安全に椅子からの立ち座りができる」「自力で床から立ちあがる」「自分で靴が履ける」等の、身体(筋肉、関節、脳等)に着目した目標を達成するように設定する。

そして個別機能訓練加算Ⅱの場合、目的は生活機能の維持・向上なので、「近くのスーパーまで買物に行けるようになる」「洗濯物を洗って、干して、たたむ事ができる」というような、身体を使った活動目標を達成するものを設定しなければならない。

個別機能訓練加算ⅠとⅡではその目的と内容が違うのでサービス事業所にも内容を明確にするため居宅サービス計画書第2表に記載するように、とのことであった。しかし、この指導はケアプランの位置づけから考えると首をかしげざるを得ない。

居宅サービス計画書と個別サービス計画書

ケアマネジャーが作成する居宅サービス計画書は、利用者と社会資源を有効に結びつけて生活の課題を解決するのが目的である。利用者の全体像を把握し、どうような支援やサービスが必要なのか、介護全体の総合的な支援を提示する計画書である。その居宅サービス計画書に基づいて、各サービス事業者が作成するのが個別サービス計画書である。そこには、デイサービスやショートステイ等の各サービス事業所が行う具体的なサービス内容を記載することになっている。

つまり居宅サービス計画書に、「〇〇が出来るようになるため機能訓練を行う」という方針が示されたとしたら、その訓練の具体的内容については、各サービス事業者が自分たちのサービスの専門性、特性、活用可能な資源等から判断して個別サービス計画で提示されるべき内容となる。

今回の場合、デイサービス事業所が通所介護計画書に具体的な訓練内容を記載し、その訓練内容が個別機能訓練加算の算定要件を満たしていれば、当該加算を算定するということになる(その際、3か月に1回、個別機能訓練計画書を作成する必要がある)。居宅サービス計画書に記載された方針と通所介護計画書に記載されたサービス内容に整合性が保たれていれば、わざわざ居宅サービス計画書に個別機能訓練加算という文言をいれる必然性はないはずである。

介護保険サービスの指定事業者であれば、実地指導を数年に一度は受けている。全国津々浦々至るところで実施され、中には上記のような些末で的外れな指導が行われる。僕が知っているだけでも、個別機能訓練加算以外に、訪問介護の「緊急時訪問加算」や訪問看護の「特別管理加算」を居宅サービス計画書に記載するよう指導があったことを聞いている。とある市町村では、居宅サービス計画書に加算の文言を記載しないと、各サービス事業所の算定を認めず返還指導も有りうる等と、とんちんかんな指導を行っているところもあると聞く。

サラリーマンとしての限界

そうなるとサービス事業者側から、居宅サービス計画書に加算の文言を入れてほしいと要望がくる。意味ないこととは思いつつ、サービス事業所が同じ法人の事業者だったりすると、法人上層部から実施指導通りに書類を作成するようお達しがくるので、そのようにせざるを得ない。

無意味な指導に対しては、きちんと反論することも大切だが、介護保険を運営している経営層からすれば、行政との余計ないざこざはなるべく控えたいのである。居宅介護支援事業所は基本的に、どこかの運営団体に所属しているのでサラリーマンとしての立場はまぬがれない。結果的に実地指導で、指摘されたことに関しては唯々諾々と従うことになる。

かくして利用者に提示されるケアプランの書面には「個別機能訓練加算」「特別管理加算」等と専門用語が羅列されることになる。一般の利用者がみてわかりやすいケアプランではなく、逆行するようなことをわざわざやっているのである。

役所としての立場

役人が無能と言っているのではない。僕の職場の地域の自治体職員には有能で見識高い人も多い。しかし彼ら(彼女ら)はケアマネジメントの専門家ではない。制度を法律に基づいて忠実に実行する専門家である。本来であればケアプランの内容についてあれこれ指図する立場ではないが、今まで述べてきたようにケアマネジャー自らが判断を役所に委ねてしまうので、ルールの追加や変更が実質的には役所サイドからのトップダウンで指示されているのが現状である。

役所としては、実地指導を行うことで「制度管理の適正化とよりよいケアの実現」するという名目がたつ。確かに制度が公正中立に運営されているかチェックするのが行政の仕事である。しかし表向きの理由はそうだとしても役所にはもう一つ重要な役割がある。すなわち財源支出の管理である。

周知のように、ほぼすべての自治体の財源は厳しい状況にある。限られた財源の中でどのように各種社会保障サービスを提供するか、各自治体職員にとって頭を悩ます問題である。どの分野もお金がなくて困っている状況では、なるべく支出を抑えたいという思考に傾くのは至極当然のことである。

そのような思惑があるのは、サービス事業者側も充分にわかっているから、なおさら必要以上に役所の意向には敏感に反応するのである。役所側としても、介入の余地が多ければ多いほど自分たちの意向が通りやすくなるので、細かいルール(といっても単なるQ&Aだが)を乱発する。何せ介護サービスをアレンジするケアマネジャーは何でもいうことを聞いてくれる、と少々なめられているのでは?と疑いたくもなる。

時々行われる実地指導で、些末ルールという楔を打ち込んでおくことで、心理的なプレッシャーをケアマネジャーにかけるという意味では充分に効果的なのである。

ケアプラン点検

次に実地指導とは別に、ケアプラン点検についても述べておきたい。

ケアプラン点検とは、給付適正化事業の一環として実施するものでケアプランがケアマネジメントのプロセスを踏まえ「自立支援」に資する適切なプランとなっているかを検証確認し、「自立支援に資するケアマネジメント」の追求およびその普遍化を図ることを目的をする。

平成20年に厚生労働省より「ケアプラン点検支援マニュアル」(厚生労働省老健局振興課)が発行され、一部の保険者においては、この「ケアプラン点検支援マニュアル」を基にしたケアプラン点検が実施されている。

それは実地指導よりさらに踏み込んだ内容で、ケアマネジャーがどのように考えてケアプランを作成したか、行政職員がチェックするという事業である。いくつかチェック項目を見てみると「解決すべき課題は、アセスメントから導き出された利用者の臨む生活を実現するための内容となっているか」「わかりやすく論理的な(ニーズと目標がつながりのある)ケアプランの設定ができているか」「目標は単なる努力目標ではなく、現実に達成可能で具体的な目標となっているか」等と、まさにケアプランの基本的な考え方を確認指導する内容となっている。

給付適正化事業という名前から想像できるように、ケアプランの作り方を一から丁寧に指導するという名目で介入し、給付を制限しようとする思惑がここでも見え隠れするのである。

例えば2018年10月から、居宅サービス計画書に位置付ける訪問介護における生活援助中心型サービスについては、週に一定回数を超えた場合に市町村に届け出が必要とされ、地域ケア会議等でそのケアプランがチェックされることになった。そこで過剰サービスと認定されれば、ケアプランの作成者つまりケアマネジャーに是正勧告等が行われる。

国が示している基準回数を超える生活援助中心型サービスを、居宅サービス計画書に盛り込んでも違法ではないし、アセスメントを踏まえた上できちんとその根拠を作成者が説明できれば問題はない。しかし今まで見てきたように、多くの居宅介護支援事業所では国や保険者の意向を忖度して、自発的に基準回数を超えないようにケアプランを作成し直すのである。

行政とケアマネジャーの関係性

このように給付制限の意向が通りやすい仕組みが、着々と積み重ねられている。ケアマネジャーが付け入れられる隙を与えてしまっているのが原因の一つである。しかしケアマネジャーの力量不足を問うことは、その裏で今の枠組みを維持しつつ、給付制限をすすめるためのカモフラージュともとれる。

冒頭で述べた通り、技術が成熟する前に制度が出来上がってしまったことにそもそもの原因がある。介護保険制度が発足して以来、制度の不備は、法改正によって改善しようと試みられてきた。しかしそれは行政の過大な介入を招き、むしろ法改正がなされる度に行政とケアマネジャーの関係性がますます固定化されてきた感がある。ケアマネジメントの技術を伸ばす環境よりも、国の意向に沿って手となり足となる人材を増やす構造を発足から20年間かけて、より硬直化したものに作り上げてしまった。

このままでは自浄作用が働くことは期待できない。ケアプランをどうこうして介護サービスの質が良くするという発想よりは、仕組みに対する根本的な思想が必要である。

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