ケアプランをめぐる攻防(1)

 ケアプランの社会背景

受け身から選択できるサービスへ

ケアマネジャーの主な業務の一つにケアプランの作成がある。ケアプランとは、介護(保険)サービスをどのように利用するか、利用者毎に具体的に体系だてた計画書のことをいう。

介護保険制度が発足する以前の時代は、要介護状態になった高齢者に対して自治体職員の判断で受けるべきサービスが決められていた。

当時の法制度のもとでは、利用者が自由にサービスを選べずに画一的なサービスが提供されがちな状況にあった。

80~90年代にかけて急速な高齢化、介護期間の長期化が進むにつれ、家族の介護負担が顕在化してきた。そこで「介護の社会化」への転換を目指した制度が、2000年に施行された介護保険制度である。

介護保険制度が発足したことによって多くの事業者が介護の分野に参入し、サービス事業者の数は劇的に増えた。

誤解されがちだが、介護保険発足以前と比べて介護の質が大きく変わったわけではなく、一番の変化は利用者が受け身で受けざるを得なかった介護サービスを、利用者が能動的に自分に合ったサービスを選べるようになったことである。

ケアマネジャーに期待される役割

介護保険制度と同時に新設された専門職がケアマネジャーであり、どのようなサービスが利用者にとって適切なのか、その選択や利用にあたっての助言を行う役割を担っているのである。

介護保険制度はその財源の多くを社会保険や税金で賄われている。であれば当然無尽蔵にサービスを利用できるわけではなく、利用する上できちんとした合理的理由が求められる。

それを体現化したのがケアプランであり、その作成業務はケアマネジャーの専門性が最も発揮され得る場面でもある。

ケアプランという特定の書式がない以前の時代では、どのようなケアを行うかは、そのサービス事業者の処遇方針に任されていた。現在のように豊富な社会資源がなかったし、多職種が連携する機会も少なく、逆に言えばケアプランがなくてもケアは成り立っていたのである。

そこで行われていたケアは別に劣っていたわけではないが、どうしても介護の質はサービス事業者が蓄積した経験や職員の感覚に頼りがちになる。

介護保険制度が描く「介護の社会化」とは利用者が様々なサービスを複合的に利用することを想定している。サービス提供側も介護保険のサービス事業者、医療関係者、地域のインフォーマルサービス等、枠にとらわれず様々な立場の人の参加が期待されている。

ケアプランがあれば、ケアの目標が文章化されるので、プランを共有することによって関係者が共通認識を得ることが出来る。

という現状を踏まえれば、ケアプランとは利用者をとりまく介護関係者にとって共通言語の役割を果たす不可欠な書類ということが理解頂けるだろう。

ケアプランの概要

今回のシリーズのテーマはケアプランについてである。「ケアプランをめぐる攻防」としたのは、ケアプラン自体が様々な思惑によって、存在意義が危機に瀕している状況を書きたかったからである。

近い将来にケアプランがなくなるということではないが、個人的には憂慮すべき事態が進んでいるように思える。現場に携わっている者の一つの視点として、とりあえず私見を文章にまとめておきたい。

ケアマネジメントの過程

ケアプランは、ケアマネジメントという過程を通じて作成される。その過程は①インテーク[サービスの受理面接]②アセスメント[生活課題の分析]③プランニング[サービス計画の立案]④サービスの実施モニタリング[サービス進行中における評価]⑥サービス評価[最終的なサービスの評価]⑦フィードバックないし上述の②から再び上述のプロセスを経る。何らかの理由でサービスが中止に至った場合、終結となる。

この過程において、それぞれの段階が独立しているのではなく、前段階の情報が次のステップで活かされて初めて効果的な手法となる。以前の記事でプログラミングの過程とからめて非常に類似点が多いということを述べた。ケアマネジメントもプログラミングも、似たような能力を求められており、その他多くの業務でも方針や方向性を示す重要性が認められるのである。

サービス実施に大きな影響を与えるという意味で、上記の①~③がケアプラン作成における最重要過程といえる。その際考え方のバックボーンとなるのがソーシャルワークの考え方であり(→「KOH NOTES」のご紹介)、介護保険法の中核となる理念でもある。

介護保険の理念

介護保険法では、要介護者が、その人が有する能力に応じ、尊厳を保持したその人らしい自立した日常生活を営むことができることを目指す、とされている。

その人らしい生活とは、すなわち画一的ではなく、その個別の利用者の背景を充分に勘案したケアプランであることが求められる。したがって、このブログでも度々指摘しているように、過程②アセスメントの重要性が理解できるのである。

ケアマネジャーが実施するアセスメントは、その業務の性質上、アート的な発想が鍵をにきるという意見を以下の記事で書いた。アセスメントの重要性と、その理由をまとめてある。

利用者一人ひとりの背景は全く違うし、かつ全てを理解することは不可能であり、我々が作成する見立てはどうしても仮定の域をでない。であればアセスメントの過程では創造性を発揮せざるを得ない部分がある。むしろそういった創造性が、ケアプランに血の通った息吹を吹き込む可能性を秘めているのである。

ケアプランの書式

となればケアプランの描き方というのは、本来であれば最も自由な表現が担保されるべき場面とも考えるのである。しかし業務の性格上、公的な役割を担っているため、ある程度最低ライン記載すべき規定を設けるのはやむを得ないという考え方も理解できる。

「介護サービス計画表(1)~(3)」居宅型

上に挙げたのが、現在使われているケアプランの書式の一部である。厚労省通知(老企第29号)では記載すべき項目が列挙されている。

アセスメントの結果が特に反映されるのが第2表であり、大雑把にいえば「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」があり、その課題に対して「長期・短期の目標」が設定され、その目標に対してどのような「サービス内容」にするか、というのがその骨子になる。

この流れが、しっかりと記載されていればケアプランの役割の大方が果たされたといっていい。ここで言うしっかりとは、利用者個別の背景がきちんと反映され、目標実現可能性があり、わかりやすく記載されているという意味である。

そのような点では、厚労省が示している書式は比較的最低限の項目を示したものであり、プラン立案者がある程度自由に描ける余地を残した書式とも言える。そもそも老企第29号の規定はあくまで標準例として提示されたものであり、必ずしもこの書式を使用する必要はないのだが、ほぼ100%の自治体が上記書式を採用している。

ケアマネジャーは、規定された書式の中に自らの創造性をどれだけ表現できるのか、というのが一つの腕の見せ所ともなるのである。

創造性とAIプラン

僕が創造性にこだわるのは、そこに専門性があると信じるからである。ケアマネジメントの過程は、きわめて人間的なかかわりを基調としており、人間に対する深い洞察があってこそケアプランに奥行きを与える。

その人の持つ経験や論理的思考、想いや美意識など幅広い能力を駆使することで初めて独自性が活きてくるのである。

仮に創造性がなければ、ケアプランはただの言葉の羅列ということになってしまう。それでよければスケジュールや過去のデータを当て込みさえすれば形式上、書面は出来てしまう。

そういう意味ではAIにも充分ケアプランは作成可能である。現に要介護者が利用しているサービスのビッグデータを活用すれば、こういったサービスはどうですか?と提示する能力を持つAIは、すでに開発されているのである(詳しくは以下の記事を参照してもらいたい)。

当然ながらAIプランはケアマネジメントの思考過程を経て作られていない。あくまでデータ上の処理で導き出された結果にすぎない。つまりはアセスメントの作業等の創造性に揉まれていないケアプランは、結果としてAIプランと大差はない。であれば別にケアマネジャーがケアプランを作る必要はないのである。

ケアマネジャーの存在意義

ケアマネジャーの専門性とは、あくまでも人間ならではの視点や発想力を基調とする。それは介護の社会化という時代の要請にも沿った専門性である。

大抵の人は、ベルトコンベアーに乗せられるような機械的な介護サービスを受けたいわけではあるまい。どのように自分の人生を生きたいか、どのように過ごしたいか、という個々の想いを大切にしながら社会全体で協力して実現していこうのが介護保険の理念であり、その実現のための旗振り役として期待されて誕生したのがケアマネジャーという職種である。

というのが、表向きの理想として掲げられた背景である。どんな業界にも表の建前と裏の現実の乖離は付き物だ。ケアプランは、介護保険の理念を体現する象徴ともいえる書類である。次回から、その書類が置かれている状況を通して、介護業界の裏の現状を炙り出していきたい。

 

おすすめの記事