
一般的な印象として、ケアマネジャーの仕事は今後ますます需要が伸びてくるので安泰だと思われることが多いようである。その理由として、やはり高齢者の増加という社会的背景があり、その状況がしばらく続くから需要は減らない、ということだろう。安泰かどうかと言えば、必ずしもそうではないと僕は思っているので、私見を述べてみたい。
ケアマネジャーの賃金
まずケアマネジャー(以下ケアマネ)の賃金であるが、厚生労働省の調査によると平均年収は3,774,800円となっている((平成29年賃金構造基本統計調査 職種別第1表・企業規模計(10人以上)「きまって支給する現金給与額」×12カ月+「年間賞与その他特別給与額」にて計算 )。平均値としてみれば、介護業界内では標準的な水準であるが、他の業界と比較すればやはり低い水準にあると言えよう。上記の金額が高いか低いかは、個々のとらえ方によって違うし、置かれた環境によっても違うだろう。ただ問題は将来的な伸び率である。
賃金が増えるためには、収入が増えなければいけないが、介護業界の主な収入源は保険料、税金、利用者負担金である。現在でも利用者の負担感は強く、大幅に負担額をあげて、業界の収入を増やすようなことは考えにくい。介護業界自体が、画期的な技術革新があるような業界でもないので、生産性が飛躍的に伸びることはない。いくら高齢者の数が増えるといっても、その分人件費や施設等の設備費用がかかるのでゼロサムゲームの理屈で従事者一人当たりの賃金が上がるわけではない。全体的な介護業界のパイが決まっている中で、それに従事する側が取り分を分け合っていくしかない。
これは介護業界だけの事情ではなく、医療や保育等も含めた社会保障に携わる分野全体に言えることである。例えば医療制度にお金がかかるのであれば、その分、他の分野で支出を抑える必要がでてくるわけである。その割り当てがどうやって決まっていくかといえば、一つはその専門性が社会にどれだけ認知されているか、という点である。医師の専門性が社会的に広く認められており、その専門性が社会に必要とされている結果として、手厚い賃金保障が提供されているのである。逆に専門性が認められなければ、取り分は減っていく傾向にある。
専門性を認められるには、現場で実績を積み重ねていくことが重要である。それと同時に現実問題として、各専門職の政治力がものを言う。大抵どの資格も職能団体を持つが、団体が力を持つほど政治への影響力は強い。当然、職能団体構成員への待遇も改善されやすくなる。医療業界で医師が絶大な権限をもっているのは、日本医師会の政治力によるところが大きい。ところがケアマネの職能団体である日本介護支援専門員協会の政治力は滅法弱い。たいして加入するメリットもないので、ケアマネの加入率も低い。今後発言力が増すとは考えにくく、他の職種も必死で全体のパイの中身の取り分のせめぎあいをしいる中でケアマネに実が得られるという過度な期待はできない。ケアマネの専門性が必要かどうかと言われれば、個人的には利用者の生活の質の向上には不可欠な要素だと思うが、それが待遇としてかたちに実るかどうかは別の話しである。
ケアマネジャーの労働環境
民間企業であれば、市場原理が働いて創意工夫をこらせば大きな報酬が得られる代わりに、市場に受け入れられなければ廃業して撤退せざるをえ得ない。充分な対価を得られる機会がある代わりに、廃業のリスクがあるため常に競争のプレッシャーにさらされる。簡単にいえば、売れてなんぼの世界である。
ただし世の中には市場原理に馴染まない業界がある。それが介護や保育等の福祉や医療、公的教育等の分野である。逆に言えば、税金等で職員の収入を保証することによって、売るためのプレッシャーを排除し、専門性を伸ばす環境を担保されているとも言える。結局は専門性の向上が国民の生活の質を保つことに繋がるからである。
もしかしたら賃金に大きな期待が出来ない代わりに、その部分に注目して、つまり安定的な収入や残業がないことを重視して、この業界に就職を望む人がいるかもしれない。しかし、介護業界がそういう環境にあるかといえば別にそうではない。
介護保険では、民間企業ほどではないにしろ一部競争原理が取り入れられているため、必然的に自社サービスを利用してもらうような努力が求められる。少なからず業務の一部は、営業的な業務に時間をとられる。
また残業が少ないかといえば、職場によるものの決して業務量が少ないとは言えない。支出を減らしたい政府の意向もあり、保険制度は改正の度に規制が厳しくなり、利用するには大量の書類を作成する必要がある。賃金が安いままなので業界は慢性的な人手不足に見舞われておりギリギリの人数で業務をこなしている。そんな状況の中で利用者の緊急事態には対応しなくてはならない。時間に余裕があるとは、とても言える状況ではない。
ケアマネジャーの専門性
無い無い尽くしで、そうしたら一体ケアマネジャーになるメリットは何かと言われれば、専門性を向上させることに意義を感じるか、やり甲斐を感じるかという点が大きいと思う。利用者の自立した生活をどうサポートするか、そのために人間理解、環境理解等は重要であろう。もう一つ仕事の安定性をどう捉えるか、という点も考慮するべき重要な視点だが、この点については回をあらためてじっくり述べてみたい。
「専門性の向上」というキーワードもいまいち何を示すのか、はっきりしない部分もあると思う。ただし、このキーワードに全く興味がなく、考えるつもりもないならば、この業界に従事することが、果たしてベストな選択なのか、上記のような待遇面を考慮した上で、今一度慎重に検討するべきである。