サザエさんから見る平均寿命の推移

アニメ「サザエさん」

アニメ「サザエさん」のマスオ役の声優、増岡弘さんが、今月の18日で代替わりとなった。1978年から演じていたというから41年間もの長期間である。現在御年83歳、あの飄々として若々しい声をその年齢の方が演じていたとは驚きだ。マスオさんの年齢設定は28歳だから、なんと歳の差55歳!年齢を感じさせない演技は流石である。

ところで、マスオさんが28歳というのは意外にも若いと思った方も多いのではないだろうか?少し気になったのでいろいろと調べてみた。ちなみに「サザエさん」原作漫画の連載が始まったのは1946(昭和21)年。原作の設定では1922年生まれの27歳。ということは1949(昭和24)年が物語の設定時になる。

「サザエさん」はラジオやテレビでドラマ化されたり、舞台で上演される等、様々なメディアで人気を博す。その中でも最も広く知れ渡っているのは、1969(昭和44)年からフジテレビで放映されているアニメ版であろう。原作とアニメの設定は若干の違いがあるが、今回は一般的に馴染みが深いアニメ版の設定を引用する。

登場人物の年齢

公式ホームページによると、磯野家の人々の年齢は次の通りとなる。

サザエ 24歳
マスオ 28歳
波平 54歳
フネ 52歳
カツオ 11歳
ワカメ 9歳
タラオ 3歳

サザエさんの24歳にもびっくりだが、波平フネ夫妻の年齢が50代前半とは!風貌だけの印象でいえば、物凄い違和感がある。カツオが11歳にしては言動が少々大人びている気もするが、見た目に関してはワカメ、タラちゃん共に、まあそんなもんであろう。

波平さんで驚いてはいけない。マスオさんの会社の同僚でアナゴさんというキャラクターは、なんと27歳という若さである。下の絵柄をみても、全然マスオさんの同僚には見えない。人生の苦労を刻んだかのような、ほうれい線がある顔面の貫禄は、どうみても50代の上司である。いずれにせよ、この設定が1969年当時の通念では違和感なく通ったのである。

平均寿命と磯野家の年齢

よく言われることだが、一般的に昔の人々のほうが大人びて見える傾向がある。その背景には、平均寿命の変化が大きな影響を及ぼしている。厚労省統計による表を見ると、ここ60年で男性は1.37倍、女性は1.4倍、平均寿命が延びたのがわかる(1950年⇒2010年)。

サザエさんの舞台背景である1949年に近い1950年にそれぞれの設定年齢を基準として、実績値で一番新しい2010年の平均寿命に当てはめてみたらどうなるか計算してみた。

1950年 2010年
サザエ 24歳 34歳
マスオ 28歳 38歳
波平 54歳 74歳
フネ 52歳 73歳
カツオ 11歳 15歳
ワカメ 9歳 13歳
タラオ 3歳 4歳

どうだろうか?現在のライフサイクルからすれば、ほぼイメージどおりである。やはり波平さんは74歳のほうがしっくりくる。いやそうあってほしい。サザエ、マスオ夫婦の年齢もそれらしくなっている。平成27年の平均初婚年齢は、男性31.1歳女性29.4歳(厚労省調査)だから、タラちゃんの年齢から逆算して5年前に結婚したと仮定すると、その時の年齢はマスオさん33歳、サザエさん29歳になり、ほぼデータと合致する(ただし2010年における年齢は、登場人物に対する違和感は払拭できるものの、残念ながら「サザエさん」作品自体の設定として通すには無理がある。フネさんがワカメを産んだのが60歳の時ということになってしまうからだ)。

平均寿命とライフサイクル

何が言いたいのかというと、その時代の平均寿命によって、その時代を生きている人々のライフサイクルが変化するということである。有り体に言えば、平均寿命が短い時代のほうが、大人びて見えるし、早く老け込んでいるように見える。昔の人々の写真をみると、実年齢より高く見えることがしばしばある。実際、若い年齢で亡くなる可能性が高ければ、それだけ人生のライフサイクルを前倒しで進めようと力学が働く。それは各個人がもともと大人びているということではなく、多分に社会背景の圧力があってのことだと思うのである。

例えば、結婚について言うと、1950年代であれば20代前半に結婚するのが普通であったし、高卒や中卒で社会に出る人も多かった。それに合わせて社会的地位や家庭内の立場も背負い込むことになる。それなりの作法なり分別なりを身につけるわけだから若いうちから自然と大人びてくる。時代の空気を纏うことで人々の顔つきも変わるのだ。

LIFE SHIFTと平均寿命

ベストプラクティス平均寿命

「LIFE SHIFT」という本によれば、今後も平均寿命は延び続け、2007年に日本で生まれた人の半分は、107歳まで生きるだろうと予測している。下の図は、本の中で紹介されていた「ベストプラクティス平均寿命」(毎年の世界1位の国の平均寿命)を時系列のグラフで表したものである。

 

LIFE SHIFT p42

見てわかるように、ほぼ一直線に上昇しており、いまだに上昇のペースは鈍化していない。この表をもとに算出すると、2007年生まれの人口の50%が到達する年齢が104歳。1997年生まれだと101〜102歳、1987年生まれは98歳〜100歳、1977年生まれは95歳〜98歳、1967年生まれは92歳〜96歳、1957年生まれは89歳〜94歳となる。人生100年時代というのは、遠い未来の話しではなく、現在進行形で生きている私たちに直結する話しなのである。

ピリオド平均寿命とコーホート平均寿命

ここで、あれ?と思われた方もいるかもしれない。先に提示した厚生労働省の将来推計の数値がそこまで高くないからである(2060年時点で男性84.19歳、女性90.93歳)。ここに数字のからくりがある。詳しくはこちらのサイトの説明を参考にして頂きたいが、簡単に言うと平均余命を今と変わらない前提で導き出したのが「ピリオド平均寿命」、医療技術の進化が今後も進むことを前提に平均余命をあらかじめ延ばした数値で導き出したのが「コーホート平均寿命」である。当然ながら、ピリオド平均寿命のほうが低めの数値が算出される。

そして多くの政府機関の調査が、ピリオド平均寿命を用いている。不確実性を排除するという観点なら、ピリオド平均寿命は間違っているとは言えない。しかし裏を読めば、年金制度等の社会保障を設計する国の立場からしたら平均寿命を低く見積もっておいたほうがなにかと都合がいい、とも言える。予算の見積りはなるべく低く抑えたいのである。

そんな思惑とは裏腹に、医療技術の発展は目覚しい。僕も仕事で医療の現場と関わることがあるが、10年前の技術が使い物にならないとはよく耳にする。そう考えるとコーホート平均寿命というのは、充分合理的な推計だと思うのである。

「LIFE SHIFT」では、人生100年時代がやってくることを前提にしている(もちろんコーホート平均寿命を採用している)。なぜ平均寿命が延びるかということが主題ではなく、人生100年をどう生き延びるか、どのようにライフプランをとらえていけばいいか、という内容である。

未来におけるライフサイクル

2075年の磯野家

もう1回、サザエさんをもとに考えてみたい。LIFE SHIFTの考え方をベースにして、仮に1977年生まれの人が98歳まで生きるとしよう。そうすると亡くなる年は2075年。1950年の男女あわせた平均寿命を60歳として、同じように磯野家の面々をそのライフサイクルに当てはめてみよう。

1950年 2010年 2075年
サザエ 24歳 34歳 39歳
マスオ 28歳 38歳 46歳
波平 54歳 74歳 88歳
フネ 52歳 73歳 85歳
カツオ 11歳 15歳 18歳
ワカメ 9歳 13歳 15歳
タラオ 3歳 4歳 5歳

波平さん88歳。未来の88歳はとてもお元気である。2075年では88歳も現役で仕事をしているイメージだ。マスオさん46歳。でも社会の立ち位置としては1950年の28歳、2010年では38歳。まだまだ若い。こうしてみると今までの社会通念をもとに人生をとらえていると、特に人生の後半を大きく見誤る可能性がある。

会社に長く勤めて60歳で定年。あとは悠々自適に暮らすというイメージは、これからの時代に全く即していない。60歳以降も、今後は多くの人に長い人生が待ち構えている。声優の増岡さんのように、求められる能力があれば今の時代、80過ぎてもまだまだ頑張れるのだが…。

これからのライフサイクルへの備え

LIFE SHIFTでは、今後の生き方を提示している。これまで多くの人々は「教育→仕事→引退」という3ステージの人生を歩んできた。しかし、寿命が延びれば、80代まで働くことが当たり前になる。働かないにしても人生の時間は残る。生きる年月が長いということは、それだけ不確実性に直面することでもある。そこで必要となるのは、画一的な生き方にとらわれず、生涯をかけ、かつ若いうちから「変化」を続ける必要があると説く。

多くの変化を経験することになる時代では、「何を大切に生き、何を人生の土台にしたいのか」という問いに向き合わざるを得ない。自分のアイデンティティを主体的に築きながら、人生をどのように計画するか。このことこそ、今の時点で取り組むべき重要な課題だと思うのである。

 

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