トンデモ上司の生態(1)

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トンデモ上司とは

世の中には酷い上司が意外にもいるものだ。今回の記事では、そういう上司を「トンデモ上司」と名付け、その生態を明らかにしていきたい。

トンデモ上司とは「トンデモ本」からヒントを得て命名した。トンデモ本とは、「著者が意図したものとは異なる視点で(=別の意味で)楽しめるもの」と定義される。

例えば、似非科学やオカルトとして扱われる内容を真の科学として主張したり、デタラメな論説や歴史を大真面目に紹介している本が該当する。そういうトンデモ本を愛好する団体(と学会)が、「トンデモ本の世界」というシリーズで様々な本を紹介している。

笑えるので、興味がある人は是非読んでみることをお勧めする。何がおもしろいかって、トンデモ本の著者たちの勘違いのぶっ飛び具合にである。

・太陽は熱くない。

・チャウチャウは宇宙犬。

・ダースベイダーは実在する。

というように常識を逸脱した数々の珍説を、こともあろうに大真面目に力説するのである。

トンデモ本の著者たちはいたって大真面目であり、読者を笑わそうなどとはこれっぽっちも思っていない。しかし、常識ある人間が見れば、その内容は爆笑するしかない代物なのである。

「トンデモ本の世界」まえがきより
ではトンデモ上司はどうか?トンデモ本なら笑ってすまされるが、残念ながらトンデモ上司の存在は、大抵深刻な状況を引き起こしているのである。
トンデモ上司たちはいたって大真面目であり、職場に不利益を与えているなどとはこれっぽっちも思っていない。しかし、常識ある人間が見れば、その存在は部下にとって有害でしかないのである。
今回は、この有害極まりないトンデモ上司について検証する。まず初めに僕の体験談を述べた上で、その生態の分析を試みる。そしてトンデモ上司の具体的特徴を明らかにし、本来あるべき上司像との対比を提示する。最後にトンデモ上司の対処法について述べていくことにしたい。

トンデモ上司実例集

僕は今までの社会人経験の中で、3人のトンデモ上司に遭遇したことがある。遭遇したというのは、直接その人たちの直属の部下として働いた経験があるということである。
正直あまり思い出したくない経験だが、だいぶ時間も経過しているので、自分が経験した出来事を客観的にみつめる機会としてみたい。

カリカリ上司

一人目は、10年ほど前に居宅介護支援事業所でケアマネジャーとして従事していた時である。その時の上司が40代の女性だったのだが、その上司はいつも部下に対してカリカリと苛ついていたので、カリカリ上司と呼ぶことにする。
その事業所は、会社が新規で立ち上げた事業所だったので当初は僕を含めて3名体制でスタートした。着任して、始めの1、2ヶ月くらいは特に問題なく業務をこなしていたのだが、ある時を境に、カリカリ上司の僕への態度が豹変する。

不機嫌モード全開で職場雰囲気が最悪に

きっかけは、あるサービス事業所に電話したときに、連絡すべき伝達事項を手元に準備しわすれて少しもたついてしまったことだ。電話を置いた途端、そのやりとりと聞いていたカリカリ上司から一言、
あなた、今のは相手に対して失礼でしょ!」と強い口調で注意をされた。自分に落ち度があったので謝ったが、それまでのカリカリ上司と全く違う口調だったので驚いたことを覚えている。
その出来事以降は、基本的に僕に対してはほぼ不機嫌な態度で対応されるようになった。きっと積もり積もった感情があって、それが一気に表に出てきた。そんな印象である。
とにかく色々と注意や指摘を受けるのだが、それがいちいち細かい。書類のちょっとした記入もれや言葉使いはもちろん、ゴミの捨て方や挨拶の仕方まで注意されるのである。それもとても不機嫌そうに。
その矛先は僕だけでななく、カリカリ上司はもう一人の同僚にも辛くあたるようになる。こちらから何か話しかけようにも常に不機嫌なので、コミュニケーションする気力も失せ会話もなくなる。こうなると職場の雰囲気は最悪になる。

トンデモ上司の破壊力

これは精神的にキツいと思い、他の事業所の先輩に相談し、その上の上司に動いてもらって、僕たち二人は他の事業所へ異動することになった。
自分たちは助かったが問題はその後である。僕らの後釜に他の職員がカリカリ上司のもとで働くことになるのだが、次々と彼女のイライラパワーに精神を砕かれていった。
その後も4、5人はその事業所から異動や退職する職員が続いた。基本的に部下に対してダメだと思うと、全てにおいて許せなくなる性質らしい。職員がすぐ辞めるということは、結果的に利用者にとっても、担当が次々と変わるので印象も悪くなる。
会社としても早めに手を打って、その上司を飛ばすなり解任するなりすれば良かったのだが、後手後手にまわったせいで何人もの不幸な時間を積み上げてしまった。職員の精神的負担、生産性の低下、人事異動、採用の手間、顧客信頼度の低下等、そう考えると一人の人間が生みだす損害とは莫大なものになり得るのである。トンデモ指数65くらいの威力であった。

オラオラ上司

続いて2人目。もうかれこれ15,6年前になるが僕は教育系出版会社に勤めていたことがある。勤務業態としては非常勤+業務委託。なので通常の上司部下の関係ではなかったのだが、なかなかのトンデモぶりなので是非ご紹介したい。
その会社での主な業務は、テキストの作成と校正である。教育現場で使用するテキストやレジュメを作成するので内容に間違いがあってはいけないので、何重にも校正作業を繰り返す。その作業をチームで行い、20人位のスタッフを束ねる現場監督のような役割を担った人物が、トンデモ上司であった。
30代半ば位の男性。この人物も先のカリカリ上司のように、ダメだと思った部下にはきつく当たるのだが、その言動がとにかく容赦がない。「おらーてめぇこらぁ」と品がないチンピラのような言葉を使うので、オラオラ上司と命名したい。トンデモ指数は87である。

パワハラ恫喝が日常化する異常事態

オラオラ上司は、チームが抱えている仕事に関しては全て把握して思い通りに部下が動かないと気が済まないタイプであった。ちょっとしたミスがあると些細なことでも不機嫌になり、部下が自分の意図しない行動をとると烈火のごとく暴言をはいていた。
ある時、同僚が仕事の進捗状況を自分に報告しないという理由で、公衆の面前で30分位罵倒され続けていたのを目撃したことがある。
おらー、てめーわかってんのか、おーこらこのくそがぁ、いーかげんにしろ、こら、ふざけんな、ぼけぇ!
というように、内容のない恫喝が8割くらいを占めていたが、全く無意味な時間の浪費である。確かにチームで仕事をするにあたって報告は大事だが、それを指導するという意識など全くなく、自分をさしおいて仕事を進めるとは何事だという怒りだけを制御せずに放出していたのである。
語調からすれば完全にパワハラである。本来あってはいけないことだが、そんなオラオラ上司の傍若無人な言動も普通にスルーされていたのである。別に小さな会社だったわけではない。僕がいたフロアには、他の部署も含めて150人近くは働いていたし、恫喝されているすぐ横では電話のやり取りや打ち合わせ等、通常業務が行われていた。要するに日常の1コマだったのである。
オラオラ上司は、そこそこ会社に利益を生みだしていたので、見てみぬふりをされていたのだろう。目をつけられた部下は犠牲になってもらうしかなかったのである。もうこれは組織としても感覚がおかしい、と言わざるを得ない。

思い通りにならない部下やミスに対する不寛容

そのうちオラオラの矛先は僕にも向けられるようになる。校正といっても、何か技術的な指導があるわけではない。部署やチームとしての教育プログラムもない。ただ原稿を渡されて間違いを直せ、と言われるだけである。
一生懸命見よう見まねで校正をするが、新人であれば知らないことだらけなので当然ミスをする。そのミスをここぞとばかり徹底的に責め立てられるのである。入社一週間の新人だろうが手加減はされない。
そんな上司の圧力にほとほと嫌気がさし、顔も合わせたくもないので僕は仕事をなるべく職場ではなく、図書館や自宅でするようになった(業務委託とすればそれも可能だった)。そんな日々がしばらく続いたある日、オラオラ上司から電話が入った。例の口調で恫喝が始まった。
おいてめー、どういうつもりだー、こらぁ、しごとなめてんのかぁ、おーこらー!
どうやら、自分とコミュニケーションをとらずに仕事をしているのが気に入らなかったらしい。僕はたんたんと相槌をうって、適当に謝罪をして電話を切った。
それから抱えている仕事を全て終わらせて納品し報酬をもらい、二度とその会社に行くことはしなかった。
以上2人のトンデモ上司について僕の体験を語ってみた。もう1人については長くなりそうなので回を変えて述べてみたい。今回の2人もトンデモ度合としてはなかなかの逸材であったが、次に述べる人物は、僕の印象ではそれらを遥かに凌駕するトンデモぶりであった。トンデモ指数は750くらいとだけ言っておこう。乞うご期待。
と学会(編集)/ 宝島社 (1999/01)
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