世の中は悪くなっている?(世界編)

「人類が、増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に、半世紀が過ぎていた。地球の周りの巨大な人口都市は、人類の第二の故郷となり、人々は、そこで子を産み、育て、そして死んでいった」

言わずと知れた不朽の名作アニメ「機動戦士ガンダム」のオープニングナレーションである。ガンダムが爆発的にヒットしたのが80年代初頭だったが、それまでのロボットアニメとは一線を画すいわゆるリアル路線を前面に打ち出した画期的なストーリーを持ち合わせた内容であった。

このナレーションは当時の未来に対する世界観をよく表している。宇宙空間にスペースコロニーなる居住空間をいくつも作り上げ、そこに人類を移住させるという、いかにも壮大な未来予想図である。その背景には、地球上には賄いきれないほどの人類が増殖するであろうという危機感が、なんとなく共通認識として80年頃の人々の間(場合によっては今も)にはあったのではないだろうか?リアルさを追求したアニメの中で、このような設定がなされて、それがヒットしたという事実はとても興味深い。

世の中は悪くなっている?FACTFULNESS

ベストセラーにもなっている「FACTFULNESS」という本を読んだ。こちらの内容を要約すると、人類は戦争や災害、貧困や格差という課題を少しずつ克服しつつあり、さらに改善に向かっている、ただし人々のお思い込みが、現状を正しく認識するのを妨げている、というものである。

この本によると「世界の人口がひたすら増え続けていく」というのも根深い思い込みの一つらしい。2017年における世界の人口は約76億。およそ100年前は20億に満たなかったのだから、驚異的に増えているのは事実である。そして人口は、ひたすら増え続けているように見える。地球の資源が枯渇するのも時間の問題に思えてくる。

しかしデータを冷静に見ると、それは単なる思い込みだとわかる。人口が増える最大の要因は、15歳から75歳の大人が増えるからである(今後の人口増加要因の69%、ちなみに子供(0から14歳)の増加は1%しか影響がない)。大人が増えないためにはどうすればいいか?子供の数が増えないことである。そして現在すでに子供の数はほぼ横ばいになっている。したがって大人の数も将来的には横ばいになる。簡単な理屈である。人口が増えるスピードはすでに減速傾向にあり、21世紀末には100億~120億で安定するとみられている。

ひところ叫ばれていた資源の枯渇論は、採掘や操業技術の発展によって可採埋蔵量が増加し、シェールガスや自然エネルギー等への代替も進んでいる現状からか、ほとんど目にすることが無くなった。おそらく人類は、スペースコロニーに移住しなくても全ての人々が地球上で暮らせるだろう。

所得が増え、子供が減る

何故、子供の数が横ばいになっているのだろうか。人類は産業革命以降、多くの進歩を遂げた。それと同じタイミングで女性一人当たりの子供の数が減少していった。つまり生活が豊かになるにつれ、子供を沢山作らなくなっているのである。次の表を見てほしい。1800年頃までは、女性一人当たりの子供の数の平均は6人だった。6人いれば人口は増えるはずだが、そうはならなかった。6人のうち4人は病気等により大人になる前に亡くなっていたのだ。

FACTFULNESS p108より

それが医療技術の進歩や公衆衛生の普及で、今は子供2人いれば高い確率で2人とも大人になれる。子供が死ぬのが当たり前だった時代が、生きるのが当たり前の時代になったのだ。これは素晴らしい変化である。どこの国でも所得が上がれば、例外なく子供の死亡率は下がる。児童労働の必要がなくなり、親はその分、子供に良い教育を受けさせようとする。避妊の知識も広まる。正のスパイラルを200年以上かけて人類は作り上げてきたのだ。

そして人類全体の平均所得も、年々上昇している。かつては、先進国と途上国という分断があり、それぞれの国民の所得には大きな隔たりがあった。しかし現在においては、その分断は正しくない。僕も学生の頃に習ったイメージ、(例えばアフリカで幼児が飢餓で苦しんでいる写真等)が抜けていなかったので、この本を読んで現状認識を大きく改めた。もちろん現在でも国民の多くが貧困にあえぐ国はある。逆に豊かな国もある。ただ実際には、全人口の大多数(75%)は中所得の国に住んでいる。貧しくも豊かでもないが、それなりの暮らしを営んでいるのだ。

サイエンス(データ)の重要性

人々の思い込みが無くならない理由は、本の中に詳しい。前回の記事で述べたことと多くかぶるが、いくつか挙げると…。

・「報道は偏る」⇨ 飛行機事故はニュースになるが、飛行機無事着陸はニュースにならない。

⇨悪事に対する監視の目が厳しくなり、悪いニュースがみつかりやすくなった。

⇨技術の進歩で悪いニュースは以前に増して広まるようになった。

・「ネガティブ本能」⇨ 世界が良くなっていると言うと、課題なんて知らんぷりでいいと聞こえる。

・良いものはゆっくり良くなっていくから見えづらい。

気分や感情で「世界は(日本は)ダメになっている、おかしな人が増えている」と言ったり、思い込んだりするのではなく、データに基づいて、正しく判断することが大事なのである。

何事も、自らを省みる姿勢がなければ改善は望めない。「これが正しい」と思い込みが激しいと硬直した思考からなかなか抜け出せない。それは可能性を自ら潰すに等しく、とても損なことだと思うのだ。アート・クラフト・サイエンス(→これからの仕事はアートの仕事だ(1))の中のサイエンスの力を発揮するならば、こういう時にこそ活用すべきである。

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