性差から社会を読み解く(2)

生物的に弱い男性

急場しのぎで作られた雄

前回、生物の基本形は雌であるということを述べた。人間における男性、女性も同じことが言える。遺伝情報を司る染色体のうち、性染色体が、XXだと女性で、XYだと男性になる。X染色体はY染色体と比べて非常に大きく、生命活動に必要な遺伝子を多く含むが、Y染色体に個体の生命活動に必須な遺伝子は存在しない。

これは、生物の基本仕様である雌の路線から、他の目的を急場しのぎで与えられた雄の名残である。雌から雄が生みだされるプロセスで負担がかかり、生物学的仕様に不整合が生じたのである。例えばパソコンを無理にカスタマイズすれば、今まで正常に動いていたソフト同士が衝突して不具合を起こすようなものである。

女性が基本形である様々な事実

事実、病気や感染症に対する免疫力は、女性は男性より高い。その証拠として、癌(悪性新生物)にかかる確率の男女差が挙げられる(平成17年の統計だと、人口10万人に対する悪性新生物の死亡率は、男性197.7に対して女性97.3)。肺炎のように外部からの病原体による病気も、男性のほうが倍近い死亡率である。

世の中の平均寿命の統計をみると、大抵男性のほうが女性より低い(平成29年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.26歳)。これは世界中どの地域でも共通して男性の数値が低い。つまり環境因子の原因というよりは、X染色体には免疫機能に関係するDNAが豊富にあるという、生物学的因子による原因のほうが合理的説明が出来るのである。

あまり難しく考えなくても、女性が基本形であるという事実は、普通に目にする事柄からも推察できる。例えば、生まれたばかりの赤ん坊は見た目ほぼ男女の差がないが、年齢を重ねるにつれ男女の差が表出してくる。特に第二次性徴では、男性の変化は女性のそれと比べて著しい。子供の声域は、男女ともにあまり変わらないが、声変わりによって男性のみ平均して1オクターブほど低くなる。

身体的にも身長体重が急激に成長するのは、男性のほうである。男性は、本来の姿である女性に近い形で生まれ、成長するに従い、徐々に男性にカスタマイズされていく。まるで雌から雄が生まれた生命の過程をなぞるかのようである。

身体的に大きくなるというのは、何か強くなったイメージがあるが、それだけ身体に負荷がかかっているともいえる。血液を大きな身体の隅々まで流すためには、心臓や血管に負担がかかるはずである。腕力は強くなるかもしれないが、生物の生命力としては弱いのである。平均寿命の差は、こんなところにも原因があるかもしれない。

生物学的な視点でみる

男性について散々な書き方をしてしまったが、別に悲観的なことを主張したいわけではない。女性だから幸運ということでもない。男も女もどちらも必要だから存在しているのである。もちろん、どちらが優れていて劣っているということではない。

男女それぞれが置かれている立場を振り返ったり社会を見つめる上で、このような視点をもつことで、違った側面が見えてくることもあるのではないか、と思うのである。個人の意識ではどうにもならない社会の深い根底には、生物として逃れられない人間の習性が横たわっているのである。そこに光をあてることで、社会の表に出ている人間の本質の部分が見えてくるかもしれない。

念のために言っておくが、今回テーマにあげた性差の成り立ちについては、生物学の専門家が様々な研究で述べていることであり、僕が適当なことを言っているわけではない。もっと詳しく知りたい方は、下に参考にした書籍を紹介しておくので、是非手にとって読んでみて頂きたい。

 

福岡 伸一(著) / 光文社 (2008/10)
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