新型コロナウイルスと情報リテラシー(2)

感染者数と死亡者数

新型コロナウイルスをめぐる報道で一番目立つ数値は何かと言われれば、それは「感染者数」である。今はセンセーショナルな報道がひと段落しているが、思い返せば感染者の増減に世の中が過敏に反応してきたように思う。

感染者というのは、言葉として非常に分かりやすい。ウイルスは感染するものだから、指標となる「感染」というワードが入っていれば、ストレートに人々のマインドに訴える。

いわゆる「感染者数」というのは、PCR検査で陽性反応が出た人のことである。しかし、PCR検査はコロナウイルスの遺伝子を探すものであって、体内に入って自然免疫で叩かれたウイルス、つまり他の人にうつす危険性のないウイルスの死骸でも、陽性になってしまう。検査陽性者自体に、必ずしも感染を広げるリスクがあるわけではない。

感染者という響きは、いかにもその人がスプレッダーのようにウイルスを撒き散らすようなイメージを連想させるが、実態としては非常に曖昧な概念である。この感染者数をもって、一喜一憂してもあまり意味がない。重要なのは「死亡者数」であって、いかに死亡者数を減らすかが最重要課題であるはずだ。

信頼できるデータを調べる

その点をデータを根拠にしながら説明を試みようと思う。では、データはどこから収集したらいいだろうか?やはり信頼できるのは、公的機関が公表しているホームページということになろう。特に厚生労働省のホームページには、新型コロナウイルスに関する包括的な情報が列挙されており、日々最新のデータが更新されている。

新型コロナウイルス感染症について(厚生労働省)

人によっては、公的機関が提供する情報は、政治家や官僚の意向で捏造や改竄が行われている可能性があるので信じない、という意見もあるかもしれないが、それを言ってしまえば何も信頼に値する情報などこの世に存在しないのである。

いずれかの情報に信を置かないと、結局は独りよがりの思い込みになるだけである。どの情報を選ぶかは、客観的な状況をふまえて判断するしかない。日本においては、保健、医療、衛生面等を統括している機関は厚生労働省であるし、仕組みとしてそこに様々な情報が集約されるという事実がある。少なくてもテレビで流される過度な演出と加工をほどこされた情報よりは、素のままの情報を見ることができる。

それでは、実際に今現在の陽性者数と死亡者数を確認してみよう。10月30日の時点で国内累計陽性者数が99,622人、累計死亡者数は1,744人である。しかし1日だけの数値を切り取っただけでは正確な状況は把握できない。時間軸を広げてデータを俯瞰してみないと全体的な傾向がつかめない。

そういう意味では厚労省のホームページはいまいち不親切である。一秒でも早く情報を公開する、という事情はわかるがデータの表示が分かりにくい。表の形態もバラバラで傾向がつかみにくい。

なのでデータを見やすくグラフ化しているサイトから情報を引用してみたい。僕が時々データをチェックしているのが、東洋経済オンラインが提供している「新型コロナウイルス 国内感染の状況(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)」というサイトである。

このサイトでは、「検査陽性者数」、「入院治療を要する者」、「重症者数」、「死亡者数」、「退院・療養解除数」、「PCR検査人数」、「実効再生産数」等の数値を見やすく時系列に沿ってグラフ化している。情報源もしっかりと明記されているし、都道府県別にデータを細かく精査できたり、ユーザーにも簡単に調査できるよう配慮がなされている。

今回は「陽性者数」と「死亡者数」以外に「重要者数」と「PCR検査人数」も併せて推移をみていきたい。一つ断っておくが、僕は統計の専門家ではないので、厳密な統計学に基づいてデータを解釈しているわけではない。なので自分の解釈が唯一の正解だとも思っていないし、他にいろんな解釈があっていいと思う。

ただデータを多元的に見ていくことで、新型コロナウイルス感染にまつわる現象の様々な側面をながめることが出来ると思うのである。国内感染が大きく騒がれ始めた今年3月頃からの、データを具体的にみていくこととする。

データからみる新型コロナウイルスの感染推移

3月下旬から5月上旬

まず、3月後半から5月初旬にかけての動きである。ちなみに緊急事態宣言の発令は4月7日、(全国の)解除宣言が5月25日である。この時期は自粛というかたちではあるが、実質的な外出制限がなされていた期間である。

検査陽性者が5月上旬に減少しているにも関わらず、同時期に死亡者数と重症者数が増加傾向にあることがわかる。この傾向は当たり前といえば当たり前で、発症から死亡までのタイムラグがあるからである。陽性者数と発症時期は必ずしもイコールではないが、各種調査を見ても傾向として大体2週間程度、陽性反応発見時と死亡者数のピークとずれがあるようである。

陽性者数のピークが4月中旬頃であるのに対して、死亡者数と重症者数のピークが5月初旬頃であったのが分かる。

5月上旬から6月下旬

続いて、5月上旬から6月下旬までのデータである。

この時期になると陽性者数が30~50名程度と、かなり低い数値で推移している。その後、追うように緩やかに死亡者数、重症者数も減少傾向に転じる。

一つ注意したいのは、この時期はかなりPCR検査の件数が低く抑えられていた点である。まだまだ重症者数が相当数いたため、検査数を低く抑えて、医療現場の逼迫した状態をなるべく回避させようとする意図があったと思われる。実際に検査数を増やしていたら、大量の陽性者が病院に殺到し、医療現場は大変な混乱状態になっていただろうと想像できる。

7月上旬から8月中旬

続いて7月から8月にかけての動きである。

7月に入ると、徐々に陽性者数が増加しはじめる。8月上旬には平均値で1日1400名程度までに増加した。これは4月のピーク時(約600人)の倍以上の数値である。死亡者数と重症者数も少し遅れて増加に転じるが、その数の上限は、4月のピーク時より低い数値に留まっている。

8月下旬に2度目のピークがあるが、平均値で死亡者が1日15名程度、そして重症者が250名程度である。4月ピーク時の陽性者数と同じ割合で死亡者数を計算するなら、1日50~60名くらいになっているはずである。一つ原因として挙げられるのはPCR検査人数の違いである。7月に入ってから検査人数が一機に上がっている。陽性者数もほぼ比例するように増加している。つまり検査数が増えたから、その分陽性反応に引っ掛かる人数も増えたのである。

検査数が増えたのは、4月、5月と比べて医療受け入れ体制のキャパシティに余裕がでてきたから、と考えるのが妥当である。実際、6月中旬から1か月程度、重症者数が相対的に少なかった時期であったのがグラフから見てとれる。

8月下旬から10月中旬

最後に8月下旬から10月にかけてのグラフを見てみよう。

陽性者数、PCR検査数は8月上旬、死亡者数、重症者数は8月中旬のピークを境にそれぞれ微減に転じ、前者は9月上旬、後者は9月下旬頃にほぼ横ばいのまま現在に至っているという状況である。

検査対象者数に惑わされない

以上のデータの推移から導き出せることは、検査陽性者数からは、社会全体が感染によってどの程度の危機に陥っているのか正確には分からない、ということである。数あるデータの一つとして目安にはなるものの過度に注目するような数値ではない。実際、今現在も600名程度の陽性者数が毎日判明しているわけで、これは4月のピーク時とほぼ同数である。だからといって、4月と同程度に深刻な状態だというのは明らかにおかしいだろう。

検査陽性者数は、その時の医療リソースの逼迫具合によって容易に変わり得る。そもそも日本では医療資源を圧迫しないように患者の増加を抑え、感染のピークを下げて遅らせる対策が行われてきた。そのためのPCR検査対象制限であったはずだ。

検査陽性者数のように外的要因で大きく変わる数値よりも、重症者数と死亡者数に着目したほうがより感染の実態に近づける。なぜなら患者として実際に治療を受けた生身の身体をカウント出来る数値だからである。これらの数値は基本的に誤魔化しようがない。

重症者数と死亡者数のデータから、例えば次にような推論も導き出せる。1回目の死亡者数のピークが5月上旬で平均で約25人。その頃の重症者数は約310人である。重症者数に対する死亡者数が占める割合は約8%である。同じく2回目の死亡者数のピークが8月下旬。死亡者数15人、重症者数250人で同様の計算をすると6%。さらに10月上旬になると死亡者数5人、重症者数150人、割合が3%まで減っている。

3月から10月にかけて、死亡者数自体はアップダウンはあるが、重症者数に対する死亡者数の割合は一貫して減少傾向を示している。つまり重症患者のうち、回復した人の割合が増えたということであり、徐々に医療リソースがいきわたり、より治療が効果的になされていると解釈できる。

外出制限との関係

それともう一つ。社会全体で外出の自粛の効果によって感染が抑えられているかといえば、必ずしもそうではないことがデータから読み取れるのである。

確かに4月から5月にかけては、緊急事態宣言を受けて相当外出が抑えられていた時期であり、その効果もあったのか(なかったかもしれないが)死亡者数も6〜7月にかけてかなり減少している。その後外出制限が徐々に緩和されるにつれ、死亡者数も微増。ただし8月下旬にピークを迎えた後、横ばいもしくは微減傾向にある。

緊急事態宣言が解除された後、外出復帰のペースは緩やかながらも一貫して増加している。特に9月10月はGotoトラベルのキャンペーンもあり、6、7月と比べて比較ならないくらい外出者の人出が増えているはずである。外出者の行動制限と死亡者数に高い相関関係があるなら、今頃は死亡者数が相当跳ね上がってもおかしくはない。

ワイドショーの欺瞞

実際には10月30日時点での新型コロナウイルスのよる日本での累計死者数は1,744人である。ちなみに令和元年度における各疾患の死亡者数をいくつか抽出してみた(出典:死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(厚生労働省))。

インフルエンザ 3,575人
肺炎 95,518人
結核 2,087人
敗血症 10,217人

ワクチンや治療薬があるインフルエンザでも、昨年は3,500人以上の人が亡くなっている。それでも今までマスク着用や新生活スタイルが必要だという事はなかった。もちろん新型コロナも12月までの累計を足さないと単純な比較は出来ないが、明らかに現在の騒ぎ方はバランスを欠いている。

未だに多くのマスコミが検査陽性者数を、あえて感染者数として逐一報道しているが、不安を煽りたくてウズウズしているのでは?と勘ぐってしまう。

いや、勘ぐってはいない。確信犯として煽っているのが、今回のコロナ騒動ではっきりと分かった。

5月6月になって明らかに死亡者数が減っているのにかかわらず、マスコミ、特にテレビのワイドショーはウイルスの恐怖を煽りに煽りまくっていた。

欧米の悲惨な状況ばかりにスポットをあて、日本では全く違う状況にあるということを冷静に伝えるわけではなく、根拠もなく

2週間後には日本はニューヨークみたいになる!」と言っていた専門家が山のようにいた。

自由を制限することの危険性や経済損失の計りしれなさを全く顧みず、都市封鎖(ロックダウン)をしない日本政府の政策を「狂っている」と吐き捨てたタレントがいた。

全国民にPCR検査を受けさせるべきだ!」と叫んでいたコメンテーターもいた。検査の有効性や実現の可能性を検証もせず、ただ感情的に無責任な意見を垂れ流しているだけだった。検査で陰性でも次の日に感染する可能性だってあるのに、全員検査することに何の意味があるのだろうか?そんなことをすれば、医療現場に混乱をもたらすだけだということが分かっていなかったのだろうか?

分かっていようがいまいが、彼らにとってどうでもいいことかもしれない。恐怖が伝染すれば、視聴率が稼げるのは確実だからである。不安に陥った人々は、不安を与えている人の次の話しを聞きたくなる。ワイドショー側からすれば手堅いお客さん(視聴者)を集める絶好の機会なのだ。間違った情報を流そうが、視聴率がとれれば別に責任は問われない。その証拠にそういった情報を垂れ流した多くの人たちは、そのまましれっとテレビに出続けているではないか。

その結果、何が起こったか。何か得体が知れない病気をもたらすウイルス、というイメージが蔓延した。実態がはっきりしてないから、とにかく恐いものとして過剰な自粛が目立つ世の中になってしまった。

情報リテラシーの必要性

もちろん過度に怖がるべきではない、という意見の人も大勢いるが、一部の声の大きい何がなんでも感染防止!という声に同調せざるを得ないような空気感が漂っている。人の目を気にしつつ常に感染に気を配り、何かと息苦しい閉塞感がつきまとう。

僕は何も新型コロナウイルスに対して全く無警戒に安心していいとは思わない。その人の属性であったり置かれている立場や職業によって適切な情報に基づいた感染予防策は必要であろう。

ただし、垂れ流される情報に無自覚に踊らせられるのは、まっぴらごめんである。世の中に飛び交っている多くの情報の信用性に疑問符がつくならば、自分から情報を主体的にとりにいくしかない。今こそ情報リテラシーが必要とされている時代はないのである。

おすすめの記事