新型コロナウイルスと情報リテラシー(3)

欧米の感染状況

最近(10月下旬以降)になって、ヨーロッパの感染状況が注目を集めている。フランスでは10月30日から全国一律の外出制限が始まり、スペインでは10月25日から、ほぼ全土に非常事態が宣言され夜間の外出が禁止されたほか、ヨーロッパ各国では今年春に続いて再び厳しい規制が広がっている。

思い起こせば、今年春に欧米で感染が爆発的に広まったことで、日本においても新型コロナウイルスに対する警戒感が一層高まったという経緯がある。新型コロナに対する恐怖感が根強いのは、欧米でのウイルスの猛威によるところが大きい。

現時点で累計の死亡者数は、アメリカで約236,000人、イギリスで約46,500人、フランスで約36,700人、イタリア約38,600人であり、日本の20~130倍と桁違いの数値となっている。実際、この地球上で同じウイルスによって、このような惨状が起こったのは事実であり、だからこそ日本でも起こりえる出来事として人々の恐怖心を刺激しやすい。

「今、日本では死者数それほど出ていないとはいえ、欧米のような状況にならないとは限らない」「その可能性がゼロではなければ、自分や自分たちの社会の安全を守るための対策を講じるのは当たり前である」「過剰と思われようが、生命を守るための行動なら過剰すぎることはない」

というように、今年春の起こった欧米での惨状が強烈にイメージに残っているため、欧米のウイルスの動向は、警戒心を呼び起こすには充分なインパクトがあるのだ。

しかしである。ここで思考を停止してしまうのは危険である。前回の記事でも見てきたとおり、メディアはなるべく恐怖心を増幅させる解釈で物事を伝えがちである。偏った見方に惑わされないためにも、冷静に事実を見極める必要がある。

まず「欧米」というくくりが、誤解をまねきやすい側面がある。一般的な欧米の生活スタイルは、屋内の土足であがったり、挨拶で握手やハグ、キスをしたりと、日本と比べて衛生面においてウイルスを媒介しやすい環境にある、と思われがちだ。そして、権利意識が高く自己主張が強いため自分勝手な行動をとる人が多く、さらに感染を増幅させているようなイメージがある。

確かにもともとの文化的背景として、そのような一面はあるかもしれないが、それだけが原因で死亡者に20〜130倍ほどの違いがでるかといえば、甚だ疑問が残るのである。

感染者の拡大以降、多くの欧米諸国ではマスク着用が義務化され、違反すると罰金まで取られるようになっている。今は家族や親しい人とも肌を接触させずに挨拶するようになっているとも聞く。

一概に文化的背景だけに原因を求めるのは適切ではない。この点ばかりに注目すると、むしろ「人と接触しないこと」「自己主張せず、周りに合わせること」が正しいとされ、極端な清潔志向的な対策に流れかねない。

清潔にするに越したことはないが、仮にその効果が目に見えなければ、もっと清潔にしなければ、とエスカレートしやすくなる。

つまり、ひたすら恐怖を煽りたい勢力からすれば、「まだまだ対策が足りないじゃないか!」と都合の良い解釈が成り立ちやすい。そのリスクは認識しておきたい。

欧米といっても、国によって置かれてる状況は違う。その国のもっている医療制度や実施している政策、さらには地理的な状況も含めて考える必要があり、単純化して同じように捉えることは出来ない。

データからみる世界の状況

やはり、より客観的に情勢を見るなら全世界的なデータを見ておくにかぎる。では、どのデータを見ればいいか?

僕が信頼出来る情報源の一つとして活用しているのは、「Worldometer」というサイトである。このサイトは、世界各国の研究者ボランティアが、特定の政府や企業の影響の及ばない独立機関を設立して運営し、世界の統計情報を無料で提供している。

英語で作成されたサイトであるが、グラフが多用されているので細かい内容まで理解できなくても、グラフを見れば大体の状況が簡単につかめるようになっている。

では、Worldometerのデータを参考にしながら具体的に世界各国の状況を見ていこう。まずはヨーロッパ主要国のイギリス、フランス、イタリアの状況である。参考のために感染者数(検査陽性者数)と死亡者のグラフを載せておく。

イギリス

イギリス陽性者数

イギリス死亡者数

フランス

フランス陽性者数

フランス死亡者数

イタリア

イタリア陽性者数

イタリア死亡者数

 

まずは実数よりもグラフの増減に注目したい。英仏伊3か国とも陽性者、死亡者とも同じような動きをみせている。3~4月にかけ陽性者数が一回目のピークをむかえ、その動きに合わせてに亡者数が増加する。各国とも多い時には1日に700~1,500人程が亡くなっている。

その後、数か月の小康状態が続き、9月頃から陽性者数が激増する。死亡者数も再度増加するが、一回目のピークと比べると少ない数に収まっている。陽性者数に対する割合としてみたら一回目よりかなり減っているといっていいだろう。

アメリカ

続いて、アメリカの現状を見ていきたい。

アメリカ陽性者数

アメリカ死亡者数

 

アメリカはヨーロッパ各国とは、違った推移を示している。陽性者数、死亡者数ともに3月以降ピークの収まりがない。ただし10月の状況を3月と比較すれば、陽性者数に対する死亡者数の割合と死亡者数自体が低くなっているのは英仏伊3か国と同じ傾向を示している。

アメリカの場合、国土が広いこともあって地域によって死者数の増減にバラツキがみられる。Worldometerでは州ごとの集計も確認できるので、比較的人口の多い東海岸のニューヨーク、西海岸のカリフォルニア、南部のテキサスの各州のデータを調べてみた。

ニューヨーク死亡者数

カリフォルニア死亡者数

テキサス死亡者数

これらのグラフを見ると、地域によって全く違う推移を示しているのが分かる。傾向として、ニューヨーク州やニュージャージー州のような人口密度が高い地域は、現時点(11月初旬)ではだいぶ落ち着いており、面積の広い州や内陸部の人口が密集していない地域では、まだ収束が見えていない状況にある。

スウェーデン

ここで、もう一つ興味深い国のデータを挙げておく。北欧のスウェーデンである。スウェーデンでは厳格なロックダウンは適用されず、緩やかにな規制に留めて集団免疫の獲得を目指すという政策を貫いている。

スウェーデン陽性者数

スウェーデン死亡者数

 

陽性者数の経緯は他のヨーロッパ諸国とそれほど違わないものの、死者数に関しては、はじめは莫大な被害をもたらしたものの8月以降は英仏伊と比べると非常に少ない人数で推移している。

日本

続いて日本の状況を確認しておきたい。参考のため同じ東アジアの国として韓国のデータも挙げておく。

日本陽性者数

日本死亡者数

韓国

韓国陽性者数

韓国死亡者数

 

2~4月頃の1回目のピーク、8~9月にかけて2回目のピークがあり、その後は微減もしくは横ばいである。韓国の最初のピーク時は陽性者数が非常に高い、というデータ以外は両国とも似たような経緯を示している。

オーストラリア

最後にオーストラリアの状況を見ておきたい。オーストラリアは英連邦に属し、欧米文化をベースに人々が暮らしている。地域としては欧米から離れたオセアニアに位置し、南半球のため季節は北半球と逆になる。

オーストラリア陽性者数

オーストラリア死亡者数

 

オーストラリアの陽性者数は、比較的日本と似た傾向を示していたが、9月以降はほとんど増えていない。そして死亡者数は、2回目のピーク(8月頃)のほうが1回目より多かったという特徴がある。2回目のピークは冬季にあたる。

以上のように、様々の国の状況を確認してきたが、それぞれの国、地域によってデータがバラバラで何か一貫した法則だとか規則性というのを見つけるのは困難である。死亡率を高めている原因には、いろんな因子が複雑にからみあっているだろうから「これが理由だ」とは簡単には言い表せない。

データから新型コロナを解きあかす

衛生観念

そうだとしてもデータから、読み取れることはたくさんある。

まず文化的な背景による衛生観念の違い(握手、ハグといった挨拶、生活習慣等)は、大きな因子ではないということである。その理由として、同じ欧米文化をもつオーストラリアやニュージーランドで、相対的に大きな死者数がでていないこと、そして同じ米国内、(つまり人々の生活習慣がほぼ同じ)でも死者数にバラツキがあること等が挙げられる。

欧米内でもバラツキがあるのは、国土面積の違いによるところも大きいだろう。ロンドン、パリ、ニューヨークといった大都市がある地域はウイルスの感染が広がりやすいが、あまり人がいない地域は感染のスピードが遅くなるので、だらだらと長引いてしまう傾向があると推測できる。

医療制度

それと医療リソースの違いも原因として挙げられる。ヨーロッパの中でも比較的、ドイツが死者数を少なく抑えられているのは、他の欧米諸国と比べて医療リソースが充実しているからだともいえる(下表参照)。イギリス、イタリア、スペイン等が特に強い被害を被ったのは、医療費が大きく削られていた事情があったのも一因と考えられる。

出典:OECD HealthData2019

貧富の格差

アメリカに関しては、国民皆保険がなく、貧富の差が非常に激しい国である。アメリカ全体の死亡者数を押し上げているのは貧困層の死亡率が高いからである。貧困層は日々の食事に気をつかう余裕がなく、どうしても高カロリーなジャンクフードがメインになってしまうため、糖尿病や心血管疾病を患っている人が多い。基礎疾患を持つ人は新型コロナに感染すれば重症化や死亡リスクが高くなる。感染しても保険がないから病院にもかかれず亡くなる人が多い、という事情がある。

季節

もう一つ気になる因子は季節である。一般的に冬は空気が乾燥するのでウイルスには感染しやすい時期といわれている。乾燥すると飛沫が飛びやすくなるという実験結果もある。今回みてきた各国のデータでも全体的に冬季に陽性者数が増加している傾向があるが、スウェーデンやニューヨーク州では、今のところ死者数が増えていないという事実もある。

さらに言うと、日本や韓国、アメリカでは8月頃に死亡者数が若干増加するという現象が起きた。この現象は季節だけでは説明できない。ただしこれから冬にかけて8月以上に死亡者が増えるなら、より明確な因子となり得る(陽性者数の増加率だけ注目してもあまり意味はなく、死亡者数との関連性を注視するべきである)。

韓国とスウェーデンの政策

韓国は陽性率、死亡率を低水準で抑えている国である。データ(2~4月の陽性者数が高い)で見たように初期の段階からPCR検査を徹底することで陽性反応者を特定し、クレジットカードの利用履歴や携帯電話の通話記録等から過去14日間の動きを割り出し、政府のサイトやアプリの通知で公開した(名前は非公開)。このようにPCR検査とIT管理を組み合わせれば、感染封じ込めには一定の効果は得られるようだ。ただし、プライバシーが容易に暴かれるリスクとは隣り合わせなので、安易にそれがベストな方策と判断するのは早計である。

韓国とは対照的な対応をしたのはスウェーデンである。3~4月には感染による死亡者が激増していたにも関わらず、ほとんど外出制限を行わず一貫して通常に近い生活が保たれていた。集団免疫を獲得しているかどうか、今の時点でははっきりとは分からないが、10月以降、他のヨーロッパ諸国の死亡者数が軒並み増加する中、スウェーデンの死者数はほとんど増加していない。陽性者数が激増しているにもかかわらずである。この政策を実行するには一時的に死者数が増えるという事実を許容するという覚悟が必要になる。

影響力の大きさ

あらためて言うが、新型コロナウイルスによる死亡者の数や増減には様々な原因が影響している。その中でも、結果に対する影響が大きい因子とそれほど影響しないと思われる因子がある。今まで見てきたデータから(国レベルでの)影響力の違いを自分なりにまとめると次のように推察できる。

影響が少ない→ 文化的背景、衛生観念

・影響が中程度→ 医療制度、貧富の格差、国土の大きさ、政策の違い

・基本的に影響が大きいと思われるが不確定要素もあり、はっきりわからない→ 季節

地域による感染状況

しかし、これらの因子よりもっと影響力が大きい因子がある。それは地域である。どういうことかと言えば、その国が地球上のどの地域に位置するかで、新型コロナウイルスから受ける被害が異なるということである。

もう一度Worldometerのデータをみてみたい(11月7日時点)。陽性者数に関しては、国の政策によって検査数も変わってくるので正確な実数を表していない。被害の度合いを調べるなら、死者数のほうが現状をより正確に示している。国によって人口が違うので、同じ条件【人口100万人あたりの死亡者数】にして、数が多い順にまとめてみた。

このように1位から14位まで、すべての国がヨーロッパもしくは北米、中南米の国に偏っている。30位までみても、22位のアルメニアと26位のイラン(どちらも中東の国)以外はヨーロッパと南北アメリカ大陸の国々ばかりである。

大まかな傾向として、上位には欧州、北米、中南米地域の国々、その次に中東、南アジア(例えば13億以上の人口を有するインドの陽性者数は840万(世界2位)を超えるものの、人口100万人あたりの死者数に換算すると92人で世界89位となる)、アフリカ諸国と続き、そして下位グループにオセアニア、東南アジア、東アジア地域の国々が連なっている(日本は14人で世界147位)。

もちろん同じ地域であっても死者数が多めにでたり少なめになることもあるが、大体は同じ範疇におさまっているのが分かる。つまり、「地域」や「季節」といった人の力では如何ともしがたい自然の因子によってウイルスによる被害がある程度決まっており、医療制度や感染防止対策をもって、わずかに人類が抵抗しているという構図がみえてくる。

だとすれば、次の疑問がでてくる。同じウイルスが地域によって何十倍も違う毒性をもって伝播したりするのだろうか?常識的に考えてそれはちょっと考えにくい。であれば受け手側、つまりその地域に住む人々が持つ免疫の違いではないか?と推察できるのである。

知見を構築する重要性

以上、データから様々な解釈を導き出してみた。これらの推論がすべて正しいとは思わないし、データの傾向が変われば因子も変わるし解釈も違ってくる可能性はある。ただし理屈立てて考えておけば、自分の意見を支えるしっかりとした根拠を得られる。根拠をもって意見を変えるのは別に恥ずかしいことではない。

データ自体はただの数値の集まりである。一つのデータを違う尺度で当てはめてみたり、複数のデータを比較してみたりすることで自分なりの知見を構築していくことが大事なのだ。そうすることで、世の中にはびこっているデマを見抜いて、いい加減な情報から身を守ることが出来る。ウイルスに対する免疫はいうまでもなく、誤った情報に対する免疫を普段から鍛えておく必要があるのだ。

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