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情報を積み重ねる
データを引用する
今年に入ってからの新型コロナを巡る騒動は、インフォデミックの様相を呈していると指摘した(新型コロナウイルスと情報リテラシー(1))。今回のシリーズにおいて僕自身、一方的な意見に引きずられないように、なるべく客観的な情報源をもとに事態を検証してきたつもりである。
まずは、できるだけ加工されていないデータを日本の状況に絞って、時系列に沿って確認し(新型コロナウイルスと情報リテラシー(2))、さらに条件の違いを念頭におきながら、横断的に世界各国の状況を見てきた(新型コロナウイルスと情報リテラシー(3))。
その過程で明らかになってきたのは、陽性者数の増加が必ずしも事態の悪化を示しているとは限らず、死亡者数の割合等を鑑みると、むしろ全体的な方向としては、事態は収束に向かいつつあるのではないか、ということである。そして死者の数に決定的な影響を与えているのは、何よりも「地域」「国」の位置であることから、免疫が大きく作用しているという推論を導き出した。いや、導き出したというより他に合理的な説明が見つけられなかったのである。
仮説を導き出す
新型コロナウイルスと情報リテラシー(4)では、免疫の働きによって、事態の悪化を食い止めていることを前提とした代表的な2つの説を紹介した。どちらの説が正しいのか、あるいは二つとも間違っているのか、もしくはいずれの説も部分的に正しいのか、僕の知見でははっきりとは分からない。ただ今の状況に対して腑に落ちる説明を示してくれるのは、今のところ免疫を前提とした仮説だけである。
いずれの説にしても、ウイルスは既に蔓延していたということになる。全く気付かないうちに、凄まじい暴露力で世の中に広がっていたのだ。もともと地球上に存在していた風邪ウイルスは、旧コロナウイルスも含め、年に何度も人に暴露を繰り返してきた。だから人はしょっちゅう風邪をひいてきたのだ。新型コロナウイルスも、今までの風邪ウイルスと同じようにヒトに体内に入り込んでいったのだろう。こういうタイプのウイルスは、撲滅など到底不可能である。
エボラ出血熱のような致死率が高く、顕著な症状がでるウイルスであれば、徹底的に隔離をして感染を防ぐ対応は必要かつ有効だろうが、新型コロナウイルスのように強力な暴露力をもち、軽症・無症状が多いウイルスとは共生を図っていくしかない。日本においては、ほとんどの人が免疫システムで撃退できているウイルスである。
免疫獲得説とパンデミック
仮に自然免疫獲得説が正しいのであれば、それはもう自然界で歴史的に積み重ねてきた結果でそうなったとしかいいようがない。アジア、特に中国周辺国で死亡者が少ないのは、以前から似たようなウイルスが何度も中国から周辺地域に蔓延し、知らないうちに免疫が強化されてきたのではないだろうか。中国では、昔からコウモリやハクビシンを食べる習慣があったので、その可能性は否定できない。
また結核ワクチンのBCGがウイルスへの反応能力をあげたのでは、という説もあるし真意のほどは分からない。ただ、意図しない行動の積み重ねでたまたまこうなったのであれば、アジア周辺国ははじめから大きなリスクはなかったことになる(逆に言うと欧米地域で免疫があって、アジアではないウイルスが今後現れる可能性もある)。
一方、上久保ー高橋説(集団免疫獲得論)によると、人の流れを止めたことが原因で、特に欧米では大きな被害をもたらしたとされる。武漢G型の変異が起こった時、武漢でパニックが生じ、中国政府が都市封鎖を敢行した。これも仮の話しになってしまうが、もし武漢が通常医療で対処していたら、K型も順調に蔓延して世界中でこんなパニックにはならなかったかもしれない。
さらにifを重ねると、10年前なら都市封鎖をしても中国国内で、ある程度秘密裡に対処できたかもしれないが、今のSNSが発達した時代では、これほど大きな動きを隠し通すことはほぼ不可能である。武漢の慌てぶりをみて、世界中でパニックが起こり、皮肉なことにいち早く渡航制限をした国々で、より大きなダメージを受けてしまった。まさに憶測による情報の伝達から生じたパンデミックだったかもしれないのだ。
メディアによる情報操作
ただし、今年の2月3月頃は新型コロナウイルスの実態がほとんど分からなかったので、最悪の事態を想定して各国の政府が動いたのは致し方ないともいえる。しかし、ウイルスが蔓延して一年も経とうとしている現在、積み上げられた観測データや各種検査等で検証された結果が数多くでている。ウイルスの性質もだいぶ分かってきているのに、未だに恐怖のウイルスというイメージを引きずっている人も多い。
これは明らかにメディアによる恐怖煽り戦略が功を奏している、といっていい。

関東地区 6-24時 総世帯視聴率(HUT) 2019年同時期と比較
上の表は、2020年1月から5月のテレビ視聴率を昨年のデータと比較したグラフである(出典元:コロナ禍で変化し続けるテレビ視聴と視聴スタイル-地域比較で見えた実態とは)。赤の折れ線が2020年で青線が2019年の視聴率を示しており、3月下旬頃から昨年と比べて5~10%程度上昇しているのが分かる。
この時期のワイドショーを筆頭とするメディアは、コロナ危険だ危険だガー!、と不安を煽りまくっていた。ここぞとばかり視聴者の心情に訴えかけ、視聴率を稼いだのである。その副作用であるが、自粛警察なるものが出現し、営業している飲食店の誹謗中傷をしたり、県外ナンバーの車を傷つけたりした。そういう人達は、むしろ正義感をもってそのような行為を行っているので始末が悪い。
PCR検査の必要性
未だに、多くのメディアで「感染者数」なるものが一人歩きし、あたかも確定した数値のように報道されている。繰り返すが感染者数とはPCR検査で陽性になった件数でしかない。検査というのは白黒はっきり陽性か陰性か分かるものだ、と僕も誤解していたが、PCR検査に関していえば、そういう精度の高いものではない。感染性のない死んでいるウイルスでも陽性と判定するものであるし、検査キットを作る会社によっても精度がバラバラで、一律の基準による検査ではない。
ある試算によると、PCR検査を受けて「陽性」の判定を受けた場合、実際に新型コロナに感染している確率は6.5%程度らしい(詳しい説明は以下のサイト参照)。いずれにしろ無症状の人が心配だから陽性かどうかチェックする、というような使い方はほとんど意味がない。
そもそも何を持って「感染」とするのか、ウイルスを保有しているだけなのか、発症との関連性はどうなのか、検査の精度はどうなのか、そういう基本的な事項をすっとばして検証もされないまま、検査の結果が陽性だ!感染だ!感染者増だ!と、騒いでいるようにしか見えないのである(covid-19の感染性とPCR陽性期間については次表を参照)。

出典:コロナ専門家有志の会(無症状の方にPCR検査を拡大することの問題は?)
免疫と検査
ここで今までの議論を免疫と検査の関連性を中心にまとめてみよう。下の図をみてもらいたい。
毎日のように大勢で飲食をして、暴露しやすい環境にある人がいたとする。1の時点で感染し、PCR陽性期間に入ったとしよう。その後、無症状のまま自然免疫で撃退してしまうと、ウイルスの遺伝子の残骸が消失して、PCR陰性期間に入る。
ところが次に2の時点で感染し、無理もしていたので自然免疫で撃退できずに熱が出て一週間寝込んだ。この間はPCR陽性期間になる。でも若くて基礎疾患もなかったので、獲得免疫で撃退して治り抗体ができて、これ以降、抗体検査をすればずっと陽性になる。しばらくしたらPCRは陰性期間に入る。その後、またしても感染したら(3)、抗体ができているので発症はしない(つまり暴露しただけの状態)のに、PCR検査は陽性期間に入ってしまう。この間、他者への感染性が高い期間は、2の発症時の前後4、5日間程度である。
免疫担当細胞は出会った外敵(病原体)を記憶しているので再感染しても抗体が発動されて撃退する。しかし、抗体の効力は再感染しないと徐々にレベル以下に低下し発動されなくなってしまう。上久保ー高橋説(集団免疫獲得論)によれば、免疫を有効に維持するには常にウイルスに再曝露し続け、抗体を発動可能な状態にしておくことが重要としている。
これは何が何でもウイルスを身体に入れてはいけない、という立場からすると、いかにも非常識な意見に聞こえるだろう。しかし新型コロナウイルスの性質や広がり方の傾向、人体の免疫の仕組み、検査の限界性、経済や文化への影響等、あらゆる状況を総合的に判断すると、合理的な対処方法と思えるのである。集団免疫の獲得、維持こそウイルスからの被害を最小限に抑え得る手段なのだ。
情報を取りに行く
今必要なのは、冷静な目で事態を見極めることである。今回の騒動で痛感したのは、メディアから発信されている情報を無自覚に受け止めていると、非常に曖昧な情報に翻弄されやすくなるということである。加工された情報は、裏に何らかの意図を含んでいることが多い。
自分から主体的に情報を取りに行くことで、少なからずそのリスクを回避できる。データを多方面から確認した上で、論理的に矛盾がないか検討し、自分で納得できる意見を持つことである。ここで大事なのは、理屈で根拠を理解しているかどうかである。分かっていれば扇情的な情報に惑わせられる確率はずっと減るであろう。
今回、僕が提示した仮説やデータが正しいかどうかは、各自で判断してもらうしかない。僕の意見や解釈を鵜呑みにするのではなく、一つの意見として参考にしてほしいのである。僕としては、自分の意見と反証するようなデータが現れれば、そのデータに基づいて意見を微調整していくだけである。
分かりやすく意見を織り込んだ情報をそのまま受け止めるのは楽である。逆に言うと楽になるようにわかりやすく加工されており、そうであるがゆえに容易に頭脳に浸透してくる。しかし大抵の場合、物事はそれほどシンプルではない。面倒なようだが、多少の手間と思考労力をかけないと情報に対する免疫は鍛えられないのである。
医療崩壊が始まっている?
ここで一つ例を挙げてみよう。最近になって(11月26日)感染者数、重症者数が増えている、と騒がしくなってきた。一部地域では、知事が不要不急の外出を控えるようアナウンスをだしている。
例えば北海道では医療崩壊が近い等と報道されているが、実際はどうなのか。今までの経緯からすると、物事を単純化して報道されている可能性が非常に高い。

出典:北海道ホームページ 新型コロナウイルス感染症について
細かくデータを見ていくと、入院患者847人に対して、重症者は21人であることが分かる。重症率に換算するとたったの2.5%。一体、どういう基準で入院させているのだろうか。軽症者の入院で病床が圧迫されれば、手厚い治療が必要な重症者に手がまわらなくなるのは当然である。重症者が21人だけで医療崩壊などと言われては、本当に医療リソースが効率的に運用されているのか疑念がわく。
そこでいろいろデータを調べていくと、ウイルスとは別に医療制度の憂慮すべき事態が浮かび上がる。情報のソースを示したうえで、事実を列挙してみよう。
・日本には165万床の病床がある(厚生労働省HP/平成29年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況)。
・日本の病床数は、人口あたりで世界最大である(経済協力開発機構(OECD) Data, Hostpital beds)。
・日本における新型コロナウイルスの対策病床数は11月26日時点で50,553症である(COVID-19 Japan - 新型コロナウイルス対策ダッシュボード #StopCOVID19JP)
・つまり、2020年11月現在、国内全病床の約3%しかコロナ感染対策に回せていない。
・入院基準が都道府県でそれぞれ違った基準で運用されており、政府はなるべく中重症者に限定して入院させるよう通達をだしている(新型コロナで「入院」を求める患者、65歳以上、基礎疾患保有、重症、妊婦などに限定—厚労省)。
入院基準が違うのは、都道府県圏内の発症者は、基本的にその圏内での治療が求められるからである。日本全体でみると医療リソースは充分あるのに、今必要な新型コロナ専門病床への移行、増設が進んでいない。患者実数に対して足りていないコロナ病床を、さらに都道府県単位で分割して、その範囲内で対処しているので運用次第ではあっという間に限界に近づいてしまう。
都道府県なんて単なる行政単位の線引きでしかないのに、こういう医療の事情もあるため、理不尽なことに県をまたいでの移動の自粛を要請される。経済活動を大幅にストップさせているほどの大事態になっているのに、もうちょっと医療リソースの弾力的な運営がされてもいいのではないか、と思ってしまう。感染者は来るなーとか叫んでいるコロナ恐怖症が全国各地にいるから、違う県の重症者の治療を融通しあうこともままならないのであろうか?
ちなみに重症者数、死者数が2桁違う欧州各国では、国をまたいで患者の分散を図っている(EU、域内の患者移送促進 コロナ対策で連携強化―首脳会議)。様々な理由はあろうが、日本の医療制度は、全体として緊急的な変化に応じた機動力が圧倒的に低いという背景が見えてくるのである。
マスコミは、ウイルスは危険だ!感染防止だ!営業自粛だ!と煽る前に、医療制度ひとつとっても、構造的な仕組み、リソース運用の方法、医療政策の適正さ等、もっと着目して掘り下げる点はたくさんあるだろう。テレビでは、医療危機が迫っている、という専門家や医者の意見ばかり報道されるが、ネット上では違う意見を発信している医療従事者の方々も大勢いる。人の生命や安全に関わる事項については、きちんと多面的な意見を公平に報道してもらいたいものである。
違う視点から医療崩壊は起こっていないという意見を一つ紹介しておく。リンクを貼っておくので是非参考にしていただきたい(新型コロナウイルス 感染症非専門医から見る医療の現状)。
情報リテラシーを鍛える
11月から陽性者数が激増しているのは、季節要因が一番高いといえるだろう。Gotoトラベルの影響だ!という意見もあるが、エビデンスが示されていないので非常に根拠が薄い。冬になれば、空気も乾燥してくるし、暖房で換気状況も悪くなるので、ウイルスの飛沫も蔓延しやすくなる。今までだって冬になれば、風邪やインフルエンザが流行していた。
新型コロナウイルスと情報リテラシー(3)で、季節は、基本的にウイルス蔓延に大きな影響力を与えているようだが、一部それと相反するようなデータもあるのではっきり分からない、と書いた。ただし8月に第2派が訪れたのも、緊急事態宣言で人の行き来を制限したことで、免疫担当細胞の記憶が薄れ、うまく抗体が作用しなかった人が一時的に増えたのではないか、とも解釈できる。
様々な可能性が想定できるので、一元的な見方に陥らず、自分の中で一番整合性がとれる考え方を作り上げていくしかない。そして一方的に流れている情報に不用意に影響されないようにしたい。今回のシリーズで検証したように、新型コロナウイルスをめぐる騒動では、無法地帯のように情報が飛び交っている。その無法地帯に飛び込んでいくのは、いささか骨の折れる作業ではあるが、自分の情報リテラシーを鍛える格好の機会でもある。確固たる軸を自分の中に持つには、根拠を地道に積み上げていく必要がある。
そして最後にもう一つ論点を提起したい。それは年齢別でウイルスに対するリスクが違ってくるという点である。ご承知のように高齢になればなるほど重症率、死亡率が高くなるという事実がある。僕自身、高齢者それも介護を必要としている人たちと多くかかわる仕事をしている。そういう仕事をしている身としては、どのようにこのウイルスと向き合っていくかというのは、熟慮せざるを得ない部分がある。もう少しだけこのテーマについて考えていきたいのでお付き合い願いたい。