新型コロナウイルスと死生観(前編)

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年代別重症化率と死亡率

厚労省発表データ

厚生労働省は、11月27日に新型コロナウイルス感染症に関する現在の状況とこれまでに得られた科学的知見について、10の知識としてとりまとめ、ホームページで公表している。

新型コロナウイルス感染症の“いま”についての10の知識

その中で、重症化する割合と死亡する割合を、年代別に次のようにまとめている。

1~4月のデータだけみると、70代の重症化率は26.2%、死亡率は17.5%、80代だとそれぞれ34.72%、30.72%である。この数値だけで判断すると、80代になると3割以上の人が亡くなっていることになるので、高齢者にとっては非常に恐ろしいウイルスという印象を持つ。

さらに見ていくと、どの年代でも重症化率、死亡率ともに1~4月と比べると6~8月には大幅に低下していることが分かる。それでも70代で重症化率8.4%、死亡率4.65%、80代は重症化率14.5%、死亡率12%。決して油断できない割合といえる。

若年層の陽性者数

では、もう少し詳しく調べてみたい。まず診断された人というのは、厳密にはどういう人なのか?【新型コロナウイルス感染症の“いま”についての10の知識】では、「日本では、これまでに約139,491人が新型コロナウイルス感染症と診断されており、」としている。この資料が発表されたのが11月27日。その時点でのPCR検査陽性者数が累計で141,750人(下表参照)なので、重症化率や死亡率の分母は、PCR陽性者数とほぼ同じといっていいだろう。

PCR検査陽性者数というのは、これまで見てきたとおり感染者数を正確に表している数値ではない。大まかな傾向を把握する程度に参考すべきで、この数値をもとに様々な計算をしてもあまり意味がない。厚労省のデータ自体が間違っているわけではないが、分母の設定に疑問が残るのである。

次のグラフは、年代別の陽性者数である。

ぱっと見て特徴的なのは、20代の陽性者数が飛びぬけて多い、ということである。往々にして若い人が、外出する機会が多くなりがちだという背景はあるだろうが、それにしても10代とこれほど差があるのは不可解である。総数でみると10代が8,145人、20代が36,599人で4倍以上の開きがある。

いくら学校や大学のリモート授業が増えたからといっても、10代と20代で普段の行動様式が全く違うとは考えにくい。友人とつるんで遊びで外出するのは10代でも相当数いるはずである。総務省のデータによると、2020年11月現在の年代別人口(概算値)は次のとおりである(引用:総務省統計局 人口推計の結果の概要)。

80代以上 1166万人
70代 1635万人
60代 1563万人
50代 1662万人
40代 1818万人
30代 1396万人
20代 1271万人
10代 1102万人
10歳未満 967万人

10代と20代の人口差はおよそ169万人、1.15倍程度の違いでしかない。実際の感染者数に4倍以上の開きがあるとするのは、かなり無理がある。とすれば、20代でPCR検査を受けた人の数が他の年代と比べて多かった、と推定できる。PCR検査人数の年代別の内訳を知りたかったが、僕が調べたところ、それが分かるデータをみつけることは出来なかった。

なので、これは推論でしかないが、10代の場合、PCR検査を行う場合、未成年なので保護者の同意が必要であり、検査のハードルが高くなる。ただし成人すれば、自己の同意だけで検査が受けられる。1~4月に比べれば6~8月はだいぶPCRの検査を受けられる基準も緩和された。20代では、夜の繁華街での就労人数が相対的に多いと思われるが、感染リスクが高いと判断した人たちが自主的に検査を受けるようになった。それに比例して陽性者が増えた。以上が、20代の陽性者数を押し上げている主な原因ではないか。

この傾向が数値として示されると、若者がコロナをばらまいている、というメッセージを拡散させやすい。多少はそういう要素はあるかもしれないが、特定の世代を悪者に仕立て上げてしまうと、安易に攻撃の対象をつくってしまうばかりか、過剰な自粛論に結びつく恐れがある。逆に言うと検査人数が少ないだけで、重症化率や死亡率を高くしてしまう可能性がある。

人口比でみた死亡率

僕が言いたいのは、検査陽性者数のような曖昧な指標を用いるのでなく、もっと確実な数値で重症化率と死亡率を計算したほうがいいのでは、ということである。重症化率に関しては、先ほどの資料で「「重症化する人の割合」は、新型コロナウイルス感染症と診断された症例(無症状を含む)のうち、集中治療室での治療や人工呼吸器等による治療を行った症例または死亡した症例の割合。」としているので、ネットから分かるデータだけでは簡単には計算できない。

ただし、死亡率に関しては、分子に今まで亡くなった人の数を当てはめればいいだけなので、かなり正確な数が導き出せる。分母に関しては、年代の人口をそのまま使うのが一番シンプルで分かりやすい。新型コロナウイルスと情報リテラシー(3)においても100万人あたりの死亡者数を順番に並べたら、地域との高い相関関係があることに気づいた。動かしようがない数値を用いることで、意外にも真実に近づけることは多いのである。

先ほどの年代別人口の表に、死亡者数とそれぞれの人口で割った死亡率を追加してみよう。

人口 死亡者 死亡率
80代以上 1166万人 1172人 0.01%
70代 1635万人 517人 0.00316%
60代 1563万人 183人 0.00117%
50代 1662万人 64人 0.00039%
40代 1818万人 22人 0.00012%
30代 1396万人 6人 0.000043%
20代 1271万人 2人 0.000016%
10代 1102万人 0人 0%
10歳未満 967万人 0人 0%

この表のように、人口比でとらえると80代以上の高齢者でも新型コロナウイルスで亡くなる確率は、約1年の間で1万人に1人である。死亡率が15%だとか35%というように言われるよりも、だいぶ印象が違ってくるのではないだろうか。

感染したら確率が全く違ってくる、と思われるかもしれないが、集団免疫についての説(新型コロナウイルスと情報リテラシー(4)(5))を学習してしまうと、もうすでに国民の過半数が新型コロナウイルスに曝露している可能性も相当高いと思えるのである。

僕の個人的な見解としては、そう思っているし、その理由をブログを通して述べてきたつもりだ。くどいほどデータを提示してきたのは根拠をしっかり自分の中に持っておきたかったからである。

巷で一生懸命に対策が行われているのは、ウイルスが自分の身体に入ってこないために努力をしているのだろう。少なくてもPCR陽性者が感染者として扱われているのだから、身体に曝露すれば世間的には疾病という認識なのである。であれば、過半数に曝露していると想定したら、むしろ分母を総人口に設定した方が、より実質的な致死率に近いという考え方になるのではないだろうか。

もちろん個人の見解なので、正しいか正しくないかは各自が判断してもらうしかない。ただし、PCR検査陽性者数を基準とした死亡率は、事実認定が相当曖昧な数値である。どのくらいの人が曝露しているかは分からないし、陽性者の中でも感染させる可能性が全くない人も相当数含まれている。そうすると実際より死亡率を高く見積もり、ここにおいても不必要な自粛を推し進めてしまう可能性がある。

失業率と自殺死亡率

全世代的にみると、自粛によって経済的なダメージを受ける人が増えるし、経済的な困窮や精神的な不安感から自殺を選ぶ人も増加する。要は社会的な損失のバランスをみて様々な対策の実施を判断する必要があると思うのだ。先ほど提示した表も一つの事実を表している。80代以上で1万人に1人、この数をどう考えるかだ。

次のグラフは、一ヶ月毎の日本における自殺者数を表示したものである。

CNNの報道によると、近年、日本の自殺者数は減少傾向にあったが、2020年10月は2,100人を超え5年前の水準に戻った、としている10月だけで、今までの新型コロナによるトータルの死者数(2,419人)の約9割に相当する。経済が低迷すると失業率が上昇する。失業率と自殺死亡率は高い相関関係がある(下表参照)。

出所:警察庁「自殺統計」、総務省「国勢調査」および総務省「人口推計」より厚生労働省自殺対策推進室作成、総務省「労働力調査」

コロナに対する安全面の配慮を過度に強調しすぎると、社会全体でみると様々な面で歪みがでてくる。若い世代に関していえば、コロナで亡くなるよりも、自殺で亡くなる可能性のほうが圧倒的に高くなる。これも一連の騒動を、違う視点から表した事実である。

要介護者の感染リスク

一法人での現状

ここで自分の仕事の内容について述べてみたい。ケアマネジャーという仕事は、高齢者と接する機会が多い仕事である。高齢者の中でも要支援認定、要介護認定を受けた人たちが対象となる。つまり今は介護が必要な状態だという、国が示している一定の基準を認められた人ということである。

一般的な傾向として、介護保険の認定を受けた人は基礎疾患を持っている人が多い。例えば【新型コロナウイルス感染症の“いま”についての10の知識】では、新型コロナ重症化のリスクとなる基礎疾患を次のように挙げている。

 

自分が担当しているケースの利用者でいえば、上記の基礎疾患の診断を受けている人は3~4割程度であろうか。しかし診断を受けていないとしても、高血圧、心血管疾患、糖尿病等は加齢に伴い必然的にリスクは高くなる。実質的には、半数以上は何らかの基礎疾患を有しているといっていいだろう。

すなわち高齢でかつ基礎疾患を持っている人の割合が非常に高く、重症化しやすい人々と対峙している、という現状がある。僕の担当しているケースは40件ほどだが、所属している事業所のケースを含めると全部で500件くらい担当している。しかし今まで新型コロナ陽性者は、1件もでていない。

さらに法人全体の居宅介護支援事業所(ケアマネジャーの事務所)のケースを含めると、少なくても約5,000件に対応しているが、僕の知るかぎり、陽性反応が出たのは今のところ二人だけである。亡くなったとは聞いていないので死亡率はゼロだ。

何が言いたいのかといえば、確率についてである。高齢者や基礎疾患を持っている人は、若い人に比べれば確かに重症化のリスクは高い。リスクが高いとされる人たちと関わることが多いので、新型コロナウイルスには敏感にならざるを得ない介護の業界であるが、その現場に身を置いていても、遭遇することはまれな疾患である。

他疾病の死亡者数

2020年12月8日の段階で、新型コロナウイルスによる死者数は2,419人。2月からのカウントなのでほぼ10か月間、1日当たりに換算すると約8人である。ちなみに2018年の他の死因による数値は次の通りである。

癌で亡くなった方は、年間37万人を超えている。1日平均で3,732人。誤嚥性肺炎が38,460人、1日平均105人、老衰が10万人以上で1日で300人亡くなっている。決して新型コロナを軽視すべきとは言わないが、明らかに今の現状は、他の疾病とのバランスを欠いている

僕自身が担当しているケースで言えば、10月から11月にかけて4人の利用者が入院をした。もちろん原因は新型コロナウイルスではなく、誤嚥性肺炎、転倒による骨折、蜂窩織炎等である。つまり要介護認定を受けている高齢者は、様々なリスクと隣り合わせであり、特に冬にさしかかるこの時期は、体調を崩し入院になるケースが多い。

基本的に人は80代、90代になれば、体力が低下し、病原体に対する抵抗力や免疫力も落ちていく。これは厳然たる事実であり、当たり前といえば当たり前である。老衰で亡くなる人が年間10万人以上いるのだ。何か月、何年と寝たきりの状態が続いていれば、ちょっとしたきっかけで肺炎になったりする。

その場合、最期の死因として肺炎と診断されるかもしれないが、大きな流れでいえば老衰ともいえる。ほとんどのケースでECMO(体外式膜型人工肺)だとか人工呼吸器は使わずに、最期は静かに看取りをする。それが、なぜか新型コロナウイルスが絡んでくると、大変だ、隔離だ、感染防止だと大騒ぎになる。

転倒にしたって、そうである。例えば、高齢で脳梗塞の後遺症で半身麻痺がある人が、麻痺の程度にもよるが自宅で暮らすとなると、転倒骨折のリスクは常につきまとう。もちろん、そうならないように福祉用具と取り入れたりして、なるべくリスクは減らすように環境を整備するが、100%完璧に事故を防ぐことは出来ない。

残念なことだが、自分のケースでも毎年のように自宅での転倒骨折というのは起きてしまう。だからと言って施設に入ればいいじゃないか、と安易には決められることではない(そもそも施設に入所しても完全に事故は防げない)。多少のリスクはあっても自宅で暮らしたい、と思うのが人間として当然の感情だからだ。つまり、あえてリスクを踏まえた上で自分の生き方を選択しているのだ。

100%安全に暮らしたいというのであれば、自宅で四六時中、誰かがずっと付き添っていなければならない。当たり前だが、介護保険サービスでそんなことは出来ない。だからと言って、「転倒して亡くなる人が年間9,645人もいる!」と大々的なキャンペーンをやって、要介護者がいるすべての家庭に24時間ヘルパーを派遣するなんてことを実施しようとするだろうか?仮にそうなったとして、朝から晩まで誰かにみられている生活をどのくらいの人が望むのだろうか?バカバカしいと思うかもしれないが、新型コロナウイルスに対して望まれる安全対策というのが、それと似たような考え方に思えて仕方ないのだ。

死生観と確率論

今回は、確率や可能性の話しを中心に述べてきた。人の生き死にに関することを、数字で論じること自体、人間味のない薄情な印象をもたれる方がいるかもしれない。

コロナウイルスの影響によって、これほど大きな騒動になっているのは、少なからず感染による死を連想させるからだ。高齢者にとっては特にそうだろう。しかし、死に対して真剣に向き合うならば、死がどの程度、自分に迫っているのか正確に知りたい、と思うのは自然な欲求である。

残りの人生を、どのように生きるのか。いわば死生観と生存の確率は、切り離せない論点である。そんな大事な要素を、怪しげな情報によって惑わされたくない。少なくても自分で納得した情報をもとに判断をしたい、そう思うのである。

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