書店の減少について

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書店減少の背景

僕は昔から本が好きで、今まで購入した本の数はおそらく3~4,000冊位になると思う。半分以上は捨てたり売ったりしたが、それでも部屋には1000冊を超える本が所狭しと並んでいる。自分は、物欲はあまりないほうだが、本に関しては、ついつい外出先の近くに本屋があるとフラッと立ち寄って、面白そうだと思ったらすぐ買ってしまうのである。

以前は、どの街に行っても、大抵本屋があったものだが、ここ10年位はだいぶその数が減ったように感じる。先日も時々利用していた近隣の本屋が閉店し、以前から気になっていたので本屋の置かれている状況を少し調べてみた。

次の表は、総書店数と総売り場面積の推移を示した表である。根拠となるデータは、経済産業省のホームページにある(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/census/hyo.html、統計表一覧の1.事業所に関する集計⇒(2)産業別集計⇒③卸売業・小売業⇒1)産業編(総括表)第1表、2608~2618行目(書籍・雑誌小売業(古本を除く)))。書店のカウントの方法や定義は調査によって違うので、数値に違いが出てくるが、この表が全体的な傾向を分かりやすくとらえているので提示させてもらった。

上記の表から読み取れるのは、1988年頃を境に書店が減少し始めており、その流れは現在まで続いていること、ただし総売り場面積については2007年頃まで増加していたと、いうことである。売り場面積はその後は減少するものの、2016年には再び増加に転じている。

書店の減少については、①インターネットの普及によりネット上の売買が増え、相対的にリアル書店での売り上げが減ったこと、②若者を中心に書籍離れがすすんだこと等が、よく原因として挙げられる。確かに、この2つの原因も影響があっただろうが、そうすると書店の減少は今後も避けられない事態なのだろうか?

小さな書店が減っている

書店の数が減少しているにも関わらず、総売り場面積が増えたということは、一店舗あたりの平均売り場面積が増えたということである。1,000坪以上あるような巨大書店や、ショッピングモールに入っているような中規模書店は比較的減少幅は少ないものの、街中にあるような、小さな書店が大打撃を受けている、という現状が読み取れる。

もともと小規模な書店は、雑誌の売り上げに大きく依存してきたところが多い。駅前の小さな書店で売り場の半分位は雑誌が占めていた店を昔はよく見かけた。しかしながら書籍よりも今は雑誌自体の売り上げが激減している。雑誌で得られる情報は、大抵ネットで探せば得られる。正確にいえばプロの編集者が作成した情報と、玉石混交のネット情報では質が違うかもしれないが、情報を得たいという利用者の気持ちを満足させる、という意味ではネットの情報で充分だし、得る手間も格段に少なくてすむのである。時間潰しにながめるにも、雑誌をめくるよりスマホを扱うほうが使い勝手がいい。

もう一つ書店で雑誌が売れなくなった理由を挙げるとすれば、コンビニの増加が挙げられる。下の表を見てみると1990年代以降、劇的にその数が増えていったのがわかる。雑誌を買うなら、わざわざ書店まで行かずとも近くのコンビニで買えば、他の日常生活品も併せて買えるからそのほうが便利である。書店の減少は1990年代から始まっていた。今のように万人がネットを利用するようになったのは2000年代に入ってからなので、書店が減少する背景は、ネットの影響を受ける前からすでに進行していたのである。

リアル書店に対するニーズ

書籍離れという説も、確かに書店減少の原因の一つではあろうが決定的な要因ではない。Kindleに代表される電子書籍の普及が、紙ベースの書籍の減少に繋がった側面もあるだろう。それにしても、書籍(紙)に対する需要は、今後も根強く残っていくと思うのである。

「この本を買う」と事前に決めていればネットでの購入は便利である。クリックだけでお目当ての本をすぐ自宅まで届けてくれる。しかし、実際に本を手にとってみて初めてわかることも多い。ペラペラとページをめくってみて、自分と相性が合いそうか、新しい気づきを提供してくれそうか、最後まで飽きずに読めそうか等、ちょっとした見定めが大事である。雑誌とは違い、書籍はその著者の思考や考えに向き合うことが前提なのだ。

また書店の本棚は、ジャンル毎に書籍が配置されている。棚をながめて興味をもった本を取り出して何冊も見定めることが出来る。偶然見つけた本が思いもよらず当たりだった時は、この上なく得した気分になる。ネットであればお薦めの本を紹介をしてくれたりするが、あくまで他人が選んだ本の確率で紹介されているにすぎない。リアル書店では、自分によるチョイスで意外な出会いに遭遇することがある。

そういった本の出会いを求めるならば、やはり大きな書店のほうがその確率は高い。本の数が多ければ多いほど選択の幅が広がるし、自分オリジナル目線で探すことが出来る。他人が読む本とは違う本に価値を見つければ、希少価値のある考え方を自分に取り込むことであり、すなわち自分の価値が高まることでもある。

僕の感覚でいえば、1000坪程度の広さを持つ書店に行ったほうが、意外な出会いに遭遇する可能性が格段に高まる。その規模の書店となると、ターミナル駅の周辺でないとなかなか存在しないのも事実である。僕の住んでいる地域では最寄駅から20分位電車に乗らないとその規模の書店がないので、なかなか行く機会がない。しかし大きな都市では巨大書店は数多くあるし、世の中のニーズとしてもリアルな書店を求めている人がまだまだいるということである。

その他、リアル本屋に対する需要としては、ちょっとした空き時間に立ち寄ることが出来たり、ゆったりとした空間で過ごしたい、といったニーズがある。前者は人が集中して集まる場所、例えば駅ナカであったり、巨大ショッピングモール内の書店であり、後者がカフェ等とコラボしてお洒落な空間を提供する書店であったりする。

いずれにしても、建物の維持費、テナント料、デザイン演出等で莫大な費用がかかる。実質、資本力のある大手の業者しか生き残るのが困難な時代になりつつあるのは間違いない。

付加価値を提供する大切さ

考えてみれば街中の商店街にある小さな書店は、米屋と同じように世の中のインフラとして活躍してきた歴史がある。それぞれの本屋に特徴はないが、むしろ特徴がないから安心で手堅い商売だったともいえる。以前は、本屋に行くしか雑誌や本が置いておらず、世の中の情報を得る手段がテレビ、ラジオ、新聞、雑誌くらいしかなかったのである。

雑誌を仕入れてさえおけば定期的に売れたし、価格競争もないので特に営業の必要もない。立地さえ確保できれば個人事業主でも充分にやっていけたのである。それが社会背景が激変したことによって裏目にでてしまった。

今の時代、何かしらの付加価値を提供しないと商売として生き延びるのが難しくなってきている。厳しい環境のなか、一万円選書といった独特な取り組みで努力している書店もある。

今回、書店をテーマにいろいろと社会背景を探ってみたが、どのような業種でも同じようなことが言えると思うのである。ある種、機械的に売り上げが見込めるビジネスモデルは難しくなっており、背景を分析した上で新たな付加価値を提示することが求められているのである。そのためには、自分の希少価値を高めてくれるような新しい本との出会いは、非常に重要だと思うのである。

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