
糖質制限とダイエット
もともと自分はやせ型の体型で、食事量を多めに摂っても太るということはなかった。それが30代後半になると、だんだんと腹の周りが緩み始めた。お腹周りに脂肪がつくと、当然ながら体重が増える。これはまずいぞと思い腹筋運動を少しばかりやってみたが、全くといっていいほど効果がなかった。
そんな時、たまたま書店で糖質制限を推奨する本をみつけ、試しにやってみるかと1か月ばかり糖質を制限した食事を続けてみた。効果のほどは、それなりにあって4㎏位体重が減少した。体重は減ったが、今度は体力が低下したのか疲れやすくなった。
やはり運動もしなければ、糖質制限をしても長続きしないと考え、あまり身体を動かすことが好きではないが、食事を制限する努力を無駄にしたくなかったので、不本意ながらスポーツジムに通って運動を定期的に実施することにした。僕にとって運動はあくまで補完的なものなので、そんなに一生懸命せずに無理なく続けることを主眼としている。
今も糖質制限とジムでの運動は続けているが、かなり緩いペースである。糖質を制限するといっても基本夕食と飲料だけだし、ジムに行くのも週に1回行けばいいほうである。それでも、大幅な体重増という事態はまねいていないし、ここ5、6年位は、ズボンのベルトの位置を緩めることなく維持できている。
体重を減らすダイエット目的とするなら、僕が実践している体型維持の方法はやり方が緩いかもしれない。しかしダイエットも基本的に考え方は一緒である。体重をコントロールしようと思えば、摂る栄養素には意識的になっておく必要がある。やはり食事の影響は大きいといわざるを得ないからだ。もちろん先に述べたように運動も大事だが、効果のバランスとしては8対2くらいの印象である。なので食事によって、どのように体重が増えるかメカニズムを知っておくことは重要である。
糖質制限のメカニズム
糖質を摂取すると、ブトウ糖になって血管に吸収される。血管の血糖値があがるとインスリンが分泌され、グリコーゲンという貯蔵庫にブドウ糖が貯蔵される。グリコーゲンに貯蔵しきれないブドウ糖は脂肪細胞に取り込まれる。脂肪が増えれば体重が増える。簡単に言えば、これが「太る」過程である。
血糖値を上げる唯一の栄養素は、糖質である。脂質をいくら摂っても血糖値に影響はしない。なので糖質制限では、糖質以外の肉や魚などの食物はいくらでも食べていいことになっている。
さらに言うと、血糖値を下げるホルモンはインスリンだけなので、過剰に糖質を摂取するとインスリンをつくる膵臓が疲弊してくる。インスリンがうまく働かなくなると、ブドウ糖が尿にまであふれだし、糖尿病になるリスクが高まる。血糖コントロールがきかないと血糖や神経にダメージを与え、腎臓や網膜等、至る箇所に影響がでる。深刻な健康被害を及ぼす危険性があるのだ。
食べ物自体に気を付けるだけではなく、食べ物を受け入れる側にも準備がいる。糖質を入り口の部分で排除したとしても、たんぱく質や脂質を効果的に身体に取り込む態勢を整えておく必要がある。それが運動であり、具体的に言えば、筋力をつけること、基礎代謝を上げておくことである。
運動をしないと体力がつかないというのもあるが、脂肪が燃えない体質のままだと糖質制限の効果が激減する。体重が増えなくても体脂肪率が高いままではリバウンドのリスクも高い。そうならないためには、普段から有酸素運動で脂肪を燃やし、ある程度筋力をつけて脂肪を燃やしやすい体質をつくっておくことが重要である。
以上のようなメカニズムは、ライザップが有名になった頃から、世間でもだいぶ知れ渡っている事実である。糖質制限の関連書籍も多く出版されているし、飲食店でも糖質オフのメニューもだいぶ増えている。理屈上、糖質をとらず定期的な運動をすれば、太ることはあり得ないはずだ。にもかかわらず、巷には糖質制限以外の様々なダイエット手法が紹介され続けている。それだけ人々のニーズがあるのは、糖質制限以外の手法を求めている人も多いということだろう。
人類にとっての誘惑
「糖質摂取量を減らし、運動をする」というのは、当たり前に誰でもわかるセオリーである。でもわかっているけど継続して実施出来ないというのが悩みなのである。だからきっと他にいい方法があるはずだ、もっと楽に効果を出したい、と思いたいのだ。僕もその悩みはよくわかる。実際にどうしても誘惑に負けてしまうことが多々ある。ラーメン、カレーライス、ハンバーガー、ケーキ、スナック菓子等、それぞれ美味しいし、なかなかその誘惑を断ち切ることは難しい。
しかし、ここで思いを巡らしてみると、世の中はいかに人に炭水化物(糖質)を食べさせようという力学が働いているか気づくのである。特に外食のメニューは、どうやってご飯や麺類でお腹いっぱいにさせようか、と様々な手法を使って僕たちに迫ってくる。パスタの麺がすすむように、いろんな具を使ったメニューが次から次へと工夫されているし、ラーメンのスープやカレーライスのルーも味のバラエティは千差万別であり、味を楽しむ機会がこれでもかというくらい提供されている。
もちろん、客に美味しく食べてもらおうとする店側の努力を全然否定するわけではないが、違う側面からみるとコメや小麦を原料とする炭水化物はコストが安いというのも事実である。あまり意識的に考えないで、好きなものを中心に食事をしていると、おそらく必要以上に糖質を摂ってしまうことになる。
日本食で考えると、昔から主食の白米中心におかずが作られているから、おかずや味噌汁等どうしても塩分が多くなりがちで、ご飯を欲してしまう仕組みになっている。
そもそも、人間の身体は糖質を大量に摂取するように設計されていない。人類の直接の祖先であるホモサピエンスの出現が20万年前頃で、基本的には狩猟や貝等から食料を得ていた。農耕が始まったのは1万2000年位からで、一般的に穀物を食するようになったのはここ数千年だと言われている。本質的には狩猟時代の名残りが人の身体にはまだまだ残っているのである。血糖を下げるホルモンがインスリンだけとういうのも(逆に血糖を上げるホルモンはグルカゴン、アドレナリン等複数ある)糖質を大量に摂ることが想定されていなかったからとも言える。
原始時代では食料が不足しがちな状況だったから、例えば木の実等の糖質を含んだ食物は、貴重なエネルギー源として脂肪に転換させていたわけである。脂肪があれば、多少食べ物がなくても生きながらえる。本来、糖質とは人類にとって滅多にお目にかかれない宝だった。なのでDNAとして糖質を求めてしまうという性質が組み込まれているのかもしれない。
糖質制限をなかなか実施できないというのは、人間の性質からすれば自然なことである。だとすれば、それなりの工夫や対応策を講じておかなければならない。次回はその辺りについて述べてみたい。