5Gと介護

通信技術が世界を変えた

スマホの普及

電車の中で周りを見回してみると、ここ5,6年位で乗客が手にしているモノがまったく変わってしまったのがわかる。10年くらい前までは、雑誌や新聞を読んでいる人が多かったが、そういう人はめっきり減って、今やほとんどの人が、スマホを眺めている。

思いつく理由には、スマホで対応できる娯楽が格段に増えたということが挙げられるだろう。ネットを閲覧するだけではなく、動画や音楽配信、各種SNSの発達、スマホゲーム性能の進化や増加等、スマホ一つあれば、選択の幅も広く、かなりのことが楽しめるので、自然と手にすることが多くなる。

娯楽だけの用途ではなく、ネットでの買い物、電子マネー、スケジュール帳等、多くの人には、すでに日常生活にかかせないデバイスとなっているはずだ。

通信技術発達の歴史

この背景の根本には、通信技術の発達がある。もともとは1Gのアナログ通信だった技術が、90年代に入るとデジタル方式の2Gが主流になり、さらに2000年代になると、音声やデータ通信を可能とした3Gの技術が開始になる。そして現代は、2010年代から主流になっている4Gの技術が使われている。

思い返してみると、通信技術のメインストリームが進化すると、我々が使うデバイスや扱うデータが変わってきている。1Gでは固定電話で音声のやり取りだけだったが、2GではPHSや携帯で音声の他にメールのやり取りを行うようになり、3Gではガラケーで写真等の画像を扱えるようになった。

そして4Gの時代になると、大容量のデータ通信を行うことが可能になり、動画の閲覧が当たり前に出来るようになった。動画や音楽のストリーミング配信サービスが劇的に発展したのもこの時期である。そして動画や大量のデータを双方向でやり取りするには、ガラケーでは扱いにくいのでスマホが爆発的に普及したのである。

ARとVR

5Gの技術

さらに2020年代になると、5Gの通信技術が主流になってくると言われている。この段階になると、4Kや8K等の高密度な動画データを、ほぼ遅延なくやり取りすることが出来るようになる。

こうなるとスマホでは扱いきれない新たなるデバイスが出てきそうである。今のところ有力視されているのが、AR/VRといった分野の発展である。ARとは拡張現実の略で、VRとは仮想現実の略である。

ARは「現実の世界の一部に仮想世界を反映させる技術」である。例を挙げるとすれば「ポケモンGO」やドラゴンボールでベジータが使っていた「スカウター」みたいなものである。ポケモンGoでは、現実世界にスマホを通じてモンスターを配置するように、またスカウターで相手を見ると、その横に戦闘能力値が表示されるように、現実世界にプラスアルファで仮想世界を追加する技術である。

VRは、バーチャルな空間を作りだしてしまい、その中に現実の人間の動きを反映させて、現実ではないが現実のように感じさせる技術のことを言う。要するに現実世界とは別の仮想空間に入り込んで、その世界を体感することである。場合によっては、コンピューターが作り出した仮想人物と話すこともできるし、複数の人で仮想空間を共有することで、その中でお互いにコミュニケーションを行うことも想定できる。

5Gにおけるデバイス

ARはすでにスマホで体感できるアプリも商品化されているが、体感度を補完するものとしてゴーグルが実用化される可能性が高い。例えばAR会議での使われ方は、下の画像を見ると一目瞭然である。今はウェブ会議を行う際にはパソコンを通じて行うが、それがゴーグルをつけることで対話をする人が目の前にいるかのように映るので臨場感が増し、かつオブジェクトを自由に設置することで会議を効率よく進ませることができる。

AR会議

VRの分野では、特にゲーム業界で進歩が著しく、今までVRを楽しむには機材の設置の手間や費用が高額だったが、最近はフェイスブックのヘッドマウントディスプレイ(オキュラスクエスト、下の画像参照)のように4万円台で手に入るようになっており、ますます身近な技術となっている。

ということで、おそらく5Gに移行する新たな段階を経るにつれ、利用するデバイスが変わり、我々の生活様式も変化していくに違いない。

介護とAR/VR

バーチャル世界によるデイサービス

最後に、このAR/VRが介護の分野においてどのような影響があるのか考えてみたい。僕は意外にも介護の現場と相性がいいように思えるのである。

足腰が弱くなって、実際に外にでるのが億劫になったお年寄りは非常に多い。そのため社会参加を目的にデイサービスを利用しましょう、という流れは多々ある。しかし、利用するまで様々な手続きも多く、また外に出るという心理的ハードルが高く、実際に利用に至らない人も数多くいる。

それをバーチャルな世界を提供することで、ずっとハードルを下げることが出来る。遊び心を満たすなら、自分の属性を変えて参加することも可能だ。例えば、現状が脚の筋力が弱って杖歩行ならば、バーチャルな世界では100メートル10秒で走れる自分にするとか、現在の顔立ちを若い頃の自分に置き換えるとか、違う自分を演出することが出来る。

その中で同じバーチャル空間を共有している人たちと交流を楽しめばいい。心理的なハードルを下げるには、それを上回る楽しみを作ることが一番効果があるのだ。

結局、それでは家を出ていないではないか、身体を動かさないでますます筋力がおちるのでは、という反論もありそうだが、社会参加が目的なら、自宅でも人とコミュニケーションが自然に出来るテクノロジーをどんどん利用すればいいじゃないかと逆に思うのである。

筋力低下を心配するならば、触覚伝送という技術を活用すればいい。5Gの確立によって違う国にいる名医が遠隔操作で他の国にいる患者を手術することが可能になるように、その技術を応用することによって、バーチャルな世界で、他の場所にいる理学療法士の訓練を受けるようなことが充分に可能性としては考えられるわけである。

新しい環境への適応

いかんせん、テクノロジーの発展は、前回の記事でも示した通り不可避な流れなのである。実際に人と直接会うアナログな交流も別に否定はしないが、時代とともに交流のあり方自体が変化しているわけで、多かれ少なかれ人はその変化に適応せざるを得ない。それを否定するなら伝達手段に電話やメールを使わないようにすればいいが、そんなことが出来る人はほぼいないのである。

思いのほか、人は新しい環境に徐々に慣れていく。80歳を超えてスマホでLINEを使いこなす高齢者を僕は何人も知っている。家族と繋がっていたい、友人知人とコミュニケーションをとりたい、という気持ちがあれば、歳は関係なく新しい環境を受け入れていくものである。

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