4文字英語の使い方

内田裕也が亡くなり、その葬儀で喪主の娘が述べた挨拶がとても印象的だった。僕は内田裕也のことはよく知らないが、破天荒な人だったであろうと想像する。家族と故人との関係性は、とても第三者には理解が及ばないし、家族の胸中は複雑であろうと推察する。そんな胸中を、文学的な表現でいい意味で淡々と表していたと思う。

そして挨拶の最後はこんな言葉で締めくくられていた。

Fuckin’ Yuya Uchida. Don’t Rest In Peace.Just rock’n roll.

(内田裕也よ。安らかに眠るな。ロックンロールであれ)。

さて、今回テーマに挙げたいのは、このfuckin’という言葉についてである。僕はこの挨拶を聞いて違和感を感じたのだが、そのことについて述べてみたい。

先に述べておくが、この文脈でこの単語を使用したことについては別に異論はない。むしろ故人の人柄に敬意を表して、適切な言葉をご家族が選ばれたのだと思うし、そのチョイスをどうこう言うつもりはない。

何が言いたいかというと、この言葉の背景についてである。4文字英語というのは、いわゆる英語の罵り言葉として頻繁に使用される言葉を総称していう(fuck,shit等)。

4文字英語は色々とあるが、使用頻度と罵り度の度合いからいうとやはりfuckがトップを飾るであろう。よく映画でfuck you!を馬鹿野郎!と訳しているが、意味合いとしてはそうだとしても度合いとしては馬鹿野郎の10倍位はヘビーである。そしてfuckin’と形容詞化することで、それこそ変芸自在に会話のいたるところで現れる。

僕は10代の頃、6年ほどアメリカに住んでいたのだが、fuckin’という言葉を日常的に聞かない日はないくらい頻繁に使われていたことを記憶している。例えば寒かったら、fuckin’ cold today!(今日はクッソ寒いな!)とか、退屈だったらit’s fuckin’ boring .(クッソつまんね〜)みたいな感じである。いかにも高校生あたりが使いそうな言葉である。

何年か前にslipknotというバンドのライブに行ったが、ボーカルが放つMCではfuckin’を連発していた。ちなみにslipknotとは、こんな人達である(↓)。いくつかの動画等を参考にしながら、こんな風に話していたなという内容を再現してみた。

 

I need all my fuckin’ family and friend here tonight. I need you all to put your fuckin’ hands together just like this. Oh my fuckin’ god! Fuckin’ turn it up little more out there! I guess it’s about fuckin’ time to go Psycho fuckin’ social!

このようにいたるところにfuckin’が散りばめられている。ちなみに「psychosocial」とは曲名である。oh my godのような慣用句や曲名の間にもちょいちょい挟んでくるのである。そうすることで、全体的に語感が乱暴な印象になる。

「今夜、ここにいるお前らにやってほしいことがある。いいか、手を挙げて、こんな風にに叩くんだ!おーすげぇな!その辺の奴ら、もっと音大きく叩いてみろ!よし、そろそろPsychosocialの時間がやってきたぞ!」

乱暴な言い回しではあるが、内容は至って普通のことを言っている。ここからfuckin’を抜くだけで、だいぶ印象も変わる。

I need all my family and friend here tonight. I need you all to put your hands together just like this. Oh my god! Turn it up little more out there! I guess it’s about time to go psychosocial!

「今夜、ここにいる皆んなにやってほしいことがあるんだ。手を挙げて、このように叩いてくれ。あー凄いね。その辺りのみんな、もうちょっと強く叩いてくれるかい。さあ、そろそろpsychosocialの時間だ!」

全体的な語感やトーンを変えるには、日本語はわりと語尾の細部まで変化させる必要があるが、英語だと単語一つ散りばめるだけで、だいぶ印象を変えることが出来る。例えばSirを同じように散りばめて使えば、軍人が上官に対する言葉遣いに近くなる。良いか悪いかは別として、言葉としては実に合理的である。

さてfuckin’は元々性的な意味を持つ言葉(というか性交そのもの)だが、これだけ頻繁に使われると本来の意味から離れて、単なる乱暴な形容詞程度の認識で扱われている。日本語で「クソッ!」と言う時、大便を想起することはまずないのと似ている。とはいえ語源が語源なので、フォーマルな場では絶対に禁句だし、テレビ等での放送はNGである(ピー音が流れるかカットされる)。Slipknotはわかりやすい例として挙げたが(彼らの人柄のことは何も否定していない。念のため)、4文字英語を使わないロックミュージシャンだっていくらでもいる。

こんなにも下品でインパクトがあり、かつ使い勝手がよく、さらに場所を選ぶ言葉は日本語には見当たらない。使い方としてはシンプルなので使ってみたい思いに駆られるかもしれない。でも普段から日常で触れていない4文字英語を使う場合は、慎重になるべきである。要はTPOであるが、使い方を間違えると、その場をマイナス30度位凍らせる威力がある。少なくても僕は使う勇気はない。

冒頭であげた違和感は、厳粛な葬儀の空間にその言葉がいきなりポンと出て来たその違和感に加え、その模様が普通に昼間のワイドショーでテレビで放送されている違和感である。あえてそのフレーズに照準合わせていたような編集もあったし。子供がぼーっとお葬式の放送見てたら、fuckin’ Yuyaと流れてくる。そんな場面を想像すると、とてもシュールに感じるのである。

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