BABYMETAL アイドルとメタル論(2)

ヘヴィメタルの成り立ち

アウトサイダーとしての音楽

ヘヴィメタルは、1960年代終わりから70年代初頭にかけてのイギリスにその起源を持つと言われている。その定義は明確ではないが、歪んだギターや叫ぶようなボーカル等、大音量で表現される一種のロックのスタイルである。

レッド・ツェッペリンディープパープル等のバンドが、それまでの一般的なロックと比べて音量が大きく激しい曲を奏でていたためハードロックと呼ばれるようになる。さらに70年後半になるとアイアンメイデンジュダースプリースト等が硬質で疾走感のあるリフや高音ボーカルのシャウトを特徴としたサウンドを世に送り出し、へヴィメタルとして確立された。

もともとヘヴィメタルはメインストリームの音楽ではない。表舞台の枠に収まりきらない周辺の音楽であり、当初は多くの人に眉をひそめられる一部のファンだけに支持される存在だったのだ。

そもそもロック自体が、周辺の音楽として発展してきた歴史を持つ。あのビートルズでさえ、当初は騒々しい音楽として保守的な人々やメディアからは批判をうけていた。そしてその音楽がメジャーになると、その枠を超えた表現をしようと様々なアーティストが現れる。

既存の枠組みを次々と壊していき、さらに表現方法は千差万別となる。ロックの歴史とは、その繰り返しだった。その原動力となったのは、自分たちが満足できる表現を追求する多くのミュージシャンの情熱と、その音楽を支持するファンの存在だった。

中心から外れた音であればあるほど批判の声も大きい。むしろ、その批判が強いほど、自分たちの意思はより確固たるものでなければ続けられない。”他の連中がなんと言おうとも自分たちはやりたい音楽を貫く“、この姿勢こそがロックの根底にあり、絶対に譲れない部分でもあるはずだ。多くのファンが共鳴するのは音楽性もさることながら、そのアティチュードに惹かれていると思うのである。

メインストリームからボーダーレスへ

HM/HR(ヘヴィメタル・ハードロック)は80年代になると、アメリカで大幅な広がりをみせボン・ジョヴィデフ・レパードガンズ・アンド・ローゼズといったグループが爆発的なセールスをあげる。

聴きやすいメロディーを主体とした音楽はMTVやラジオで頻繁に流れ、産業化が進んでいく。このジャンルの音楽も時代が進むとメインストリームに躍り出るようになったのである。

しかし90年代に入るとニルヴァーナを筆頭とするグランジがブームとなる。それと対比するようにHM/HRシーンは一気に下火になった。皮肉にも、かつてのアウトサイダーがメインストリームとなったことで、他のアウトサイダーに追い払われる形になった。

とはいいつつ栄枯盛衰の激しい世界である。メタルの精神は受け継がれつつ、様々なミュージシャンがより自由な表現で思い思いの音楽を創っていく。テクノ、トランス、ヒップホップ等の要素を取り入れるメタルバンドも現れ、散発的に人気を博すようになる。

デスメタル、ゴシックメタル、ニューメタル、ミクスチャー等と様々なジャンル分けがなされているが定義は曖昧である。後付けで似ている者同士が便宜的にそう呼ばれているだけで確定されたものではない。

要は枠組みが明確でなくなり、ジャンルに囚われない、よりボーダーレスな混沌とした状況。メタルを含めた現在のロック界はそんな状況であるといえる。

アイドル文化の背景

女性アイドルグループの特徴

続いてアイドルについて考察してみるが、今回はBABYMETALがテーマなので日本のアイドルシーン、特に女性アイドルグループに焦点をあてて述べてみたい。海外にもアイドルは存在するが、日本ほど巨大なマーケットとして成り立っている市場はないであろう。

ウィキペディアによるアイドルの記述を見てみよう。「1970年代に至り、未成熟な可愛らしさ・身近な親しみやすさなどに愛着を示す日本的な美意識を取り入れた独自の「アイドル」像が創造された。(中略)それまでレコード会社が楽曲制作を自社の専属作家に任せていたのを、無所属の作家に開放したことが切っ掛けで、「アイドル歌謡」が隆盛するようになった。

その後、現在に至るまで女性アイドル産業が特に盛んな背景として、「元来女性は、男性にはない『感動しやすい習性』『精緻なる感受性』をもつがゆえに、巫女的な妹の力(いものちから)を得て、生きる力、幸福への道を伝えることができる」とする、民族学者・柳田國男の評論が持ち出されるケースがある」とある。

女性アイドルに可愛らしさ、素人っぽさが求められているのは、アイドルに詳しくない僕にも充分に同意できるところである。普段意識しなくても、あらゆるメディアで女性アイドルが笑顔を振りまき、元気よく受け答えをする姿が目に入ってくる。それは暗にそういう姿を多くの人々が求めているということでもある。

アイドルと日本社会

これは女性アイドルに限った話しではなくて、社会の特徴に起因する話しでもある。「未成熟な可愛らしさ・身近な親しみやすさ」と「若さ」はイコールで結び付けられ、女性が「若い」ということにやたらと高い価値を置いている社会ならではの現象ともいえる。男性アイドルが30代、40代になっても比較的活躍しているのに比べ、女性アイドルの大半が20代前半までにアイドルから転身していることからも分かる。

良い悪いは別として、売れているか売れていないかは正直に社会の意識を反映していると思うのである。女性の若さに必要以上に価値を置く社会にいることで、意識をせずとも女性の生き方に影響を与える。

働き方や仕事家庭内の男女の役割が表面上は平等でも、深い意識では大きく変わっていないのではないかと、こういうところから考えてしまうのである。日本の特殊性として、これはこれで興味深いテーマだが、今回の記事のテーマとは外れるので別の機会で論じてみたい。

アイドルはミュージシャンではなく、その人物やグループを偶像化された芸能タレントである。アイドルが歌う曲はあくまでも二次的なもので、アイドルを魅力的に演出するための手法の一つである。

アイドル自身が自分自身をプロデュースして売り込むというよりは、プロダクション会社が、アイドルを育てつつメディア等に営業をかけるというのが基本的なパターンであろう。つまり主体となって演出しているのはプロダクション側であって、その枠内で与えられた役割を演じているのがアイドルと言える。

ヘヴィメタルとアイドルの対比

こうやって俯瞰してみると、アイドルとメタルでは音楽性の違いがかなり明確になる。ヘヴィメタルにとって音楽そのものが、その存在する意義といっていいが、アイドルにとっては音楽自体が目的ではなく手段になっている。

ヘヴィメタルがその成り立ちからアウトサイダーとして、既存の枠組みに疑問を持って破壊してきた経緯から、必然的に曲調は攻撃的で激しく、歌詞の内容は怒りや人間の暗部に満ちたものが多くなる。それに対してアイドルの曲は、純粋性を際立たせるために、曲調は穏やかでポップであり、歌詞の内容は恋愛の淡い心情であったり歌って楽しめるものが多い。ヘヴィメタルは、当然演奏する者が自ら作詞作曲するが、アイドルには作曲をする人が別にいる。

両者の下積み期間については、メタルバンド(やその他多くのロックバンド)が基本的にライブハウスで音楽を通じてファンを獲得していくのに対して、アイドルはプロダクション側の戦略によって、どのような売り込みをするかによって何をしたらいいかが変わってくる。

いわば枠組みの外から反発のムーブメントとして成り立ってきたのがロックであり、それが先鋭化したのがヘヴィメタル。逆に枠組みの中から、求められる姿をきっちり作り上げ、それを外に提供しているのがアイドルといえよう。

BABYMETALの特殊性

以上のように、アイドルとメタルは嗜好や方向性が全く違うので、2つのジャンルが交わることは基本的にはなかった。けれどBABYMETALはそれをやってのけた。それも世界規模で壮大な数の人々の注目を集め、話題を振りまいている。

いやむしろ海外だから爆発的にうけた、という背景もある。特に欧米では、未成熟な可愛さに対して、もてはやすような価値が基本的にないので、少女が歌って踊るというアイドルグループを僕は今まで見たことがない。僕が知らないだけかもしれないが、少なくても音楽の分野でメジャーなジャンルとして存在はし得ない。アイドルの女の子とヘヴィメタルを結びつけるなんて発想すらなかったと思う。

BABYMETALの登場は、まさにインパクトであったに違いない。アイドル文化に日常的に慣れていない人々ならなおさらそうである。前回の記事でも、BABYMETALをメタルと呼んでほしくないと主張する意見を紹介した。筆者はヘヴィメタルのファンとしての矜持があるのだろう。アイドルが生みだされる背景を的確に分析し、情熱から作り出される音楽ではないと異議を唱えた。

しかし情熱が、ヘヴィメタルを演奏する人の専売特許かといえばそうではない。確かに音楽に対するこだわりはヘヴィメタルバンドよりアイドルには少ないかもしれない。しかし音楽を通じて何かを感じてほしいという情熱は多くのアイドルが心に秘めているように思える。

楽しんでほしい、元気を出してほしい、というシンプルな想いは、たとえ音楽の成り立ちは違えどパフォーマーの力量によって相手に伝わると信じる。BABYMETALのライブで多くの観客が魅了されているという事実は覆せない。

パフォーマーであるメンバーの実力と楽曲のクオリティはもちろん人気の一因ではあるが、アイドル文化に対する物珍しさ、戸惑いも多分に影響があるだろう。大袈裟に言えば壮大な文化交流の現象とも言える。そういった視点も含めて次回述べてみたい。

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